Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 基礎
シンポジウム 基礎1超音波定量診断技術の最前線

(S270)

バイオ超音波顕微鏡 −最近の進歩

Recent development of Ultrasound Biomicroscope

西條 芳文1, 長岡 亮1, 色摩 譲1, 吉田 康紀1, 荒川 元孝1, 小林 和人1, 2

Yoshifumi SAIJO1, Ryo NAGAOKA1, Joe SHIKAMA1, Koki YOSHIDA1, Mototaka ARAKAWA1, Kazuto KOBAYASHI1, 2

1東北大学医工学研究科, 2本多電子株式会社研究開発部

1Graduate School of Biomedical Engineering, Tohoku University, 2Division of Research and Development, Honda Electronics Co. Ltd.

キーワード :

【はじめに】
超音波の波長とビーム幅は周波数に反比例するので,高周波数超音波を用いることで高解像度のイメージングが実現できる.機械走査型超音波顕微鏡(scanning acoustic microscopy: SAM)は固定フォーカスの超音波振動子を,薄切し基板上に載せた組織の上で二次元走査し,各点での反射波を画像化することを基本原理とし,作成された画像はCモード画像とも呼ばれる.一方,高周波数領域におけるBモード画像は,血管内,消化管,眼科領域で臨床応用され,皮膚の微細構造の可視化も実現されている.現在では,撮像モードにかかわらず,高周波数超音波を用いた医学・生物学用イメージングを総称してバイオ超音波顕微鏡と呼んでいる.本シンポジウムではSAMとBモードそれぞれにおける最近の進歩について発表する.
【細胞観察用SAMの開発】
SAMの開発当初は,バースト波を用いた反射のピーク値のみが保存可能であったので,定量解析は困難であった.しかし,異なる周波数で同一部位を繰り返し計測し,周波数依存特性から組織表面の反射と基板からの反射を分離することで,組織の厚みと音速,減衰を同時に計測することが可能になった.以降,組織音響特性の定量評価が飛躍的に発展し,SAMによる計測データが超音波画像の成り立ちの基礎的データや組織バイオメカニクス解析に応用できるようになった.21世紀に入り反射波形そのものが記録できるようになると,単回の計測で周波数特性を解析可能になり,定量計測に要する時間が1分程度に短縮されたため,多くの施設でSAMが使用されるようになってきた.
われわれの研究グループでは,中心周波数400〜800 MHzの振動子を用いるとともに,機械走査を従来のステッピングモーターからピエゾアクチュエーターに変更することで細胞観察用の超音波顕微鏡を開発した.さらに,音響パラメータについても,組織の厚み,超音波の音速,減衰に加えて,音響インピーダンス,密度分布までも計測可能になっている.
【高周波数Bモードによる皮膚微細構造の観察と粘弾性計測】
市販されている皮膚観察用の超音波計測装置では20 MHzの超音波が用いられ,皮膚の厚み計測や皮膚と皮下組織の分離には有用性が示されていた.われわれは120 MHzの超音波を用いることで,表皮と真皮の分離および真皮内の毛細血管,皮脂腺の三次元構造の可視化に成功している.高周波数BモードはOCTよりやや劣るもののOCTと比肩する画質が得られ,OCTよりも深部の可視化,具体的には真皮最奥層の観察が可能であるので,ニッチな領域ではあるが唯一の診断手法として国際的にも注目を浴びている.
さらに,皮膚表面の吸引や音響放射圧による微小変位を加えることで,皮膚の表皮と真皮を区別した弾性計測が可能となった.最近では,皮膚深部に存在する動脈からの脈波の伝搬を計測することでも皮膚の粘弾性計測が可能になり,皮膚のエイジングや化粧品の効果判定などに応用している.
【結語】
バイオ超音波顕微鏡の最近の進歩について紹介した.今後は高周波数アレイ型振動子の開発や光音響イメージングやOCTとのハイブリッドイメージングにより,さらに発展することが期待される.