Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断12他領域医師・技師に役立つ心エコー図

(S259)

非心臓手術の術前評価における心エコー検査のポイント

Role Echocardiography before Non-cardiac Surgery

宝田 明

Akira TAKARADA

兵庫県立淡路医療センター内科

Internal Medicine, Hyogo Prefectural Awaji Medical Center

キーワード :

手術は多かれ少なかれ侵襲であり,潜在的にもしくは明らかに心臓疾患を持っている場合には致死的な心不全に陥る可能性がある.術前評価では,心疾患自体の程度のみならず,患者の年齢,手術の侵襲度,原疾患の生命予後・生命の質,他の重篤な合併症の有無などを総合的に考慮する.
【非心臓術前のリスク評価と管理 ACC/AHA 2007】
<Step1:緊急手術>手術を要する原疾患が極めて重篤な状態では術前評価を行っている余裕がない.心血管病変が存在するものとして濃厚なモニタリングを行って対処する.<Step2:心疾患活動性>時間的余裕がある場合には,心疾患の症状がなくても潜在的な病変を評価する.重度心疾患(不安定もしくは重症の狭心症,最近に起きた心筋梗塞,NYHAⅣの非代償性心不全,重度の不整脈,重度の弁膜症)があれば評価と治療を行ったうえで手術を考慮する.<Step3:手術のリスク>重度心疾患がなく低リスク手術であれば手術へ.<Step4:運動能力>高・中等度以上リスク手術の場合,患者に症状がなく日常生活における活動量が4METs以上なら手術へ.<Step5:臨床的リスク因子>運動耐用能が4METsに満たない場合,周術期の心リスクが増加する.臨床的リスク因子(①虚血性心疾患の既往,②代償性心不全あるいは心不全の既往,③脳血管障害の既往,④糖尿病,⑤腎不全)が2項目以下なら手術へ,3項目以上なら管理方針を決定するための検査を考慮する.
【個々の病態における術前心エコー検査のポイント】
(1)虚血性心疾患:局所壁運動低下の有無,心収縮力・心拡大の程度などの安静時心機能の定量的評価など心エコー検査の有用性は高い.しかし周術期に心筋梗塞を起こすリスク判定については有用でない.(2)大動脈弁狭窄症:重症の大動脈弁狭窄症では非心臓手術の周術期死亡率が上がるため,非心臓手術を中止するか,もしくは非心臓手術の前に弁置換術を行う.弁置換の適応がない症例で,経皮的大動脈弁バルーン形成術が妥当とみなされる場合があるが,術後早期からの閉鎖不全や再狭窄などに留意する.(3)左室収縮障害:低心機能の重症度評価に左室駆出率が重要である.左室駆出率が40%以下になるとイベントが増加する.低心機能患者の重度危険因子は,非代償性心不全,重度の不整脈,重度の弁膜症であり,緊急手術でなければその治療を優先する.(4)左室拡張障害:術前に心不全と診断された場合に,左室駆出率が低下した収縮不全でも駆出率が保たれている拡張不全でも,術後のイベント発生は同等とされている.特に高齢者では加齢に伴う拡張障害が存在するため注意を要する.(5)肥大型心筋症,僧帽弁前方運動(SAM)や左室中間部狭窄(MVO)による急変:術後に生じる左室の過収縮,発熱や薬物による末梢血管抵抗の低下,脱水などによる左室径の短縮により,肥大型心筋症がベースになくてもSAMやMVOを生じることがある.大動脈と左室流出路の角度が強いS字状中隔などでは注意を要する.左室内腔を保つ意味からも十分な前負荷による血管内volumeの適正化が重要である.胸部X線写真,尿量,中心静脈圧などでhypovolemiaや水分過剰をモニターすることが多いが,その判断に迷うときや心不全の疑いのあるときには,心エコー図を用いて心腔の大きさや心機能を評価する必要がある.
【結語】
ACC/AHAガイドライン2007では,非侵襲的検査の役割は低く,Step2の重度心疾患(活動性心疾患)の診断とStep5で中等度以上リスクの手術を受ける高リスク患者での心筋虚血の評価のみである.ガイドラインと臨床現場の間に乖離が存在する.患者ごとにリスクを判断し心エコー検査を行うことの意義は大きい.