村垣 善浩, 伊関 洋, 前田 真法, 岡本 淳, 岸本 眞治, 鈴木 孝司

Yoshihiro MURAGAKI, Hiroshi ISEKI, Norihiro MAEDA, Jun OKAMOTO, Shinji KISHIMOTO, Takashi SUZUKI

東京女子医科大学先端生命医科学研究所先端工学外科学分野

Faculty of Advanced Techno-Surgery, Institute of Advanced Biomedical Engineering and Science, Tokyo Women’s Medical University

キーワード :

1940年代Lynnらの研究そして1950年代Fryらの装置開発から始まった集束超音波治療（HITU）であるが，新規治療法として様々な疾患に臨床応用されている．子宮筋腫や前立腺肥大等の良性腫瘍，前立腺癌はじめ肝癌膵癌乳癌等の悪性腫瘍，そして本態性振戦に対する基底核凝固や骨転移の疼痛緩和等の機能的疾患に対する臨床応用や治験も始まっている．標準治療として地位を確立した領域はないが，外科手術やラジオ波アブレーションや凍結治療等の穿刺を必要とする局所治療と比較してより低侵襲な代替治療として一定の地位を確立しつつある．国内では前立腺癌（東海大学内田ら），膵癌（東京医大森安ら），乳癌（ブレストピア古澤ら），双胎児輸血症候群（昭和大学岡井ら）等に対して臨床研究が行われている．
照射装置は様々な方式が考案実用化されている．適応疾患，空気を入れないための装置と身体間の接着方法，あるいは照射部位のモニタリング方法という大きく3つの要素の違いからなる．典型例は，前立腺がんや前立腺肥大を対象とし診断用超音波で照射部位のモニタリングを行い直腸側から照射するプローブ型小型装置（Sonoblate:Focus Surgery:米国），主に腹部臓器の癌を対象とし診断用超音波でのモニタリングを行い仰臥位で上方から照射するドーム型中型装置（FEP-BY02: China Medical Technologies:中国），子宮筋腫や乳癌を対象としMRI温度画像で照射部位モニタリングを行い腹臥位で下方から照射するMRI一体型大型装置と頭部対象のためのヘルメット型装置（Exablate:Insightec:イスラエル）等が代表的なものである．国内でも東大工学部（松本研佐久間研）で乳癌用治療装置が開発中である．
新規応用範囲として薬剤併用集束超音波治療がある．現在6時間以内の急性期脳梗塞を対象に血栓溶解薬vs．血栓溶解薬＋90分の集束超音波治療の2群間のランダム化phaseIII国際共同試験が進行中である．動物実験段階であるが，我々も前臨床試験が終了した抗癌DDS製剤と新規照射方法Triggered HITUを組み合わせた音響力学療法の効果を証明し臨床試験を計画中である（日立メディコ，日立製作所，東北大学梅村研）．欧米も温度応答性薬剤とHITUを組み合わせた治療法開発計画（Sonodrugプロジェクト:Phillips）が進行中である．また，HITUによって一時的に脳血管関門BBBを開き薬剤を到達させる（海馬BBBを開き大分子の認知症治療薬投与）新規DDS法や，電気刺激同様にHITUによって頭蓋外から神経を刺激するneuromodulationも脚光を浴びている．HITUの問題点は，原理機械上は物理的な照射焦点と身体内での照射焦点が異なる可能性があることと一回照射体積が狭いこと，臨床上は極めて新規な治療法であるために標準治療との比較方法が困難なこと，規格上は安全規格（IEC60601）が発行されたが維持必要であり照射パラメータの決定が必要なこと，産業上は国産HITU機器が実用化されていないことである．多くのパラメータをもち薬剤併用含めて様々な治療可能性をもつHITUであるため，本学会が中心となり国産治療法，国産治療機器開発を加速する研究が発表討議ことが望まれる．本研究の一部は戦略的国際標準化加速事業（国際標準共同研究開発事業：集束超音波治療機器の要求性能及び安全指標評価手法に関する国際標準化事業の助成を受けた．