Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断9各領域の診断基準のポイントはここだ!

(S245)

胎児静脈血流波形基準値: 胎児下大静脈,胎児静脈管

Fetal venous blood flow pattern of Ductus venous and Inferior vena cava: Japanese reference ranges

村越 毅

Takeshi MURAKOSHI

聖隷浜松病院総合周産期母子医療センター周産期科

Maternal and Perinatal Care Center, Seirei Hamamatsu General Hospital

キーワード :

超音波ドプラ法による胎児血流計測は胎児低酸素症やアシデミアなど胎児の健常性や胎児胎盤循環の指標として広く用いられている.特に子宮内胎児発育不全(FGR: fetal growth restriction)では臍帯動脈(UA: umbilical artery)や中大脳動脈(MCA: middle cerebral artery)のRI, PIが広く臨床で用いられており,本学会でもUAおよびMCAの基準値を作成し報告している.胎児循環を表す指標としては,UAやMCAなどの動脈系の血流計測だけでなく静脈管(DV: ductuc venosus)や下大静脈(IVC: inferior vena cava)などの静脈系の指標も大切である.特にFGRなどの病的胎児では胎児低酸素症から胎児アシデミアに進行するにつれて,UAやMCAなどの動脈系の指標が基準値を逸脱し,その後,静脈系の指標が異常値となり最終的には胎児死亡となることが知られている.また,DVやIVCの血流波形は胎児右心負荷の状態を表す指標としても重要である.
本邦においても過去にlimited case numberでの報告があるが,多数例の日本人胎児から作成された基準値および計測法は定まっていなかった.そこで,日本超音波医学会用語・診断基準委員会では胎児静脈系血流の標準値検討小委員会を立ち上げ,日本人胎児DVおよびIVCの超音波ドプラ法による血流波形記録から算出されるIndexに関して標準的計測法に基づき日本人正常胎児の妊娠進行に伴う基準値を作成し一定期間パブリックコメントを求めた後,2013年に「胎児静脈系基準値(2013)」として確定した.
【DV PIおよびDV a/Sの基準値】
本邦で677症例から作成され日本超音波医学会誌に発表されたDV PIおよびDV a/Sの基準値を,同一条件で計測された他施設(本邦3施設)でのデータ(400症例)を用いて妥当性を確認した.DVの計測方法は胎児の矢状断もしくは冠状断で臍静脈からDVへ移行する部分をカラーもしくはパワードプラで描出し,臍静脈がDVに移行した直後をサンプルポイントとしてパルスドプラにて測定する.ドプラ角は50度以内となるようにできる限り小さくする.肝静脈波形が混ざらないようにサンプリングポイントは2-3mmで血管幅に合わせて設定する.測定値はPI(pulsatility index:(S-a)/m)およびs/Sを用いた.求められた基準値は以下の回帰式で示される.
DV PI =(-0.009809 x GA + K x 0.1413) 1.25
DV a/S =(-0.00014 x GA2 + 0.01512 x GA + 0.4392 + K x 0.08787) 10/7
GA = gestational age (weeks)
K =-1.64, -1.28,0,1.28,1.64 for 5th, 10th, 50th, 90th, 95th percentiles
【IVC PLIの基準値】
同一条件で計測された多施設(本邦4施設)でのデータ(718症例)を用いて日本人胎児のIVC PLI(preload index)の在胎週数毎の基準値を作成した.IVC PLIの計測方法は胎児の矢状断で下大静脈をカラーもしくはパワードプラで描出し,右心房になるべく近く安定した波形が得られる部位をサンプルポイントとして測定する.ドプラ角は50度以内となるようにできる限り小さくする.サンプリングポイントは2-3mmで血管幅に合わせて設定する.測定値はPLI(preload index: a/S)を用いた.求められた基準値は以下の回帰式で示される.
IVC PLI = 5.49 x 10-1 - 6.87 x 10-3 x GA + K x 8.93 x 10-2
GA = gestational age (weeks)
K =¬-1.64, -1.28,0,1.28,1.64 for 5th, 10th, 50th, 90th, 95th percentiles
今回作成したIVCの基準値は,過去の本邦からの報告と比較しても大きな差違は認めなかった.
胎児の健常性や病態を把握するためには胎児血流計測は有用な手段であり,胎児動脈系に加えて静脈系(DV, IVC)の日本人胎児基準値が作成されたことは日常臨床及び臨床研究において大切な意義がある.