Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断7分子基盤に立った超音波の治療応用

(S237)

骨再生における超音波によるシグナル伝達

Mechanotransduction in Bone Regeneration by Low Intensity Pulsed Ultrasound

高垣 裕子

Yuko MIKUNI-TAKAGAKI

神奈川歯科大学大学院口腔科学講座硬組織分子細胞生物学

Oral Sciences, Kanagawa Dental University

キーワード :

【目的】
低出力超音波パルス(LIPUS)は,1983年Duarteにより骨折治癒促進作用が報告され,1994年に米FDAにより骨折治療器として医療機器承認された.骨折の癒合日数が4割短縮されることが報告され,市販後調査では遷延癒合や偽関節も含め高い癒合成功率を収めた.国内では1998年から四肢の難治性骨折に保険適用され,2006年11月からは観血的手術を実施した四肢の骨折を適応とする「先進医療」も認められた.一方骨折治癒促進効果に関し,培養細胞を用いた実験が1999から2001にかけて国内外で勢力的に行われた.1)軟骨細胞の基質産生(Parviziら1999),骨芽細胞・肥大軟骨細胞の分化・活性化(Nolteら2001)促進,骨折間隙の軟骨骨化境界の破軟骨細胞数の増加(Azumaら2001)により内軟骨性骨化を促進する,2)COX2を介し頭蓋骨由来MC3T3-E1細胞のPGE2産生を促進(Kokubuら1999),あるいは初代骨芽細胞や骨髄由来ST2細胞の骨基質産生を促進し,COX2の誘導により更に増幅する(Naruseら2000),3)骨芽細胞の増殖促進(Sunら2000)などが報告された.その後骨膜細胞の増殖促進(Leungら2004),コラーゲン架橋の誘導を伴うMC3T3-E1細胞の分化促進(Saitoら2005)・破骨細胞活性化による骨吸収促進(Lirani-Galvaoら2006)などが加わり,実に多岐にわたる作用が想定される.Azumaら(1999)が骨折モデルで指摘したように治癒過程の3相がすべて前倒しに早まるとすれば,LIPUS特異的な細胞応答・シグナル伝達経路と呼べるものは何だろう?最近の自他の研究からLIPUSの骨芽細胞に対する作用を考察してみたい.
【細胞の応答】
骨折治癒における骨形成促進に関しては,骨膜(Leungら2004)や血腫の細胞(Freemanら2009)が照射の結果ALP・オステオカルシンの発現,石灰化促進を示すこと,Runx2・Osterixの発現増加を伴うことが報告された.実際の仮骨を詳細に検討し,若齢のマウスに比して老化が軟骨内骨化を遅延させており,LIPUS照射はそれらに加えてBMP2,4,6やFGF2,特にVEGFの発現も大きく促進して遅延を回復させることが報告された(Naruseら2010).LIPUSによりVEGFが血行を促進して仮骨を石灰化に導くことが軟骨内骨化を早めること(Freemanら,2009),それが老齢ラットの治癒遅延解消のメカニズムであること(Katanoら2011)も報告された.最近ではGFPマウスに接合した骨折マウスにLIPUS照射を行い,CXCL4−SDF-1系の関与,ALP陽性の細胞が液性に骨折部位にリクルートされるという報告もある(Kumagaiら2012).
【シグナル伝達経路】
上述のCOX2の関与から,NSAIDS投与やCOX2 KOマウスによる実験が行われ,インテグリン下流でAktのリン酸化を経てNFκB,COX2に至る経路が提唱された(Giannoudiら2000,Simonら2002,Tangら2006,Naruseら2010など).α5β1インテグリンに関しては,更に,Syndecan-4の関与するRac1の活性化(Mahoneyら2009)や胚葉性の異なる骨組織の特異的なインテグリンの関与(Watabeら2011)も報告されている.
【考察と結論】
骨折治癒を前倒しにするLIPUSの作用であるが,骨芽細胞の活性・分化を促進することが中心的役割を果たすのであろう.感染・炎症との関係(Kusuyamaら2014)などの新しい側面,細胞による応答の差,増殖促進の有無など,今後の研究成果が待たれる.