Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断7分子基盤に立った超音波の治療応用

(S237)

LIPUSによる間葉系幹細胞の分化調節

LIPUS influences multi-lineage differentiation mesenchymal stem and progenitor cells

楠山 譲二

Joji KUSUYAMA

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科口腔生化学分野

Department of Oral Biochemistry, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences

キーワード :

【目的】
間葉系幹細胞は骨芽細胞,脂肪細胞へと多分化能を持つ細胞である.近年,機械刺激が幹細胞の分化調節の重要な因子であることが報告されている.LIPUS(低出力超音波)は骨折部に機械刺激を与えることで早期治癒を促す臨床応用例であるが,骨折部に最初期に集合し骨芽細胞を供給する間葉系幹細胞への影響については殆ど報告がない.そこで,LIPUSによる機械刺激が間葉系幹細胞の分化に与える影響とその分子機構を解析した.
【材料と方法】
マウス間葉系幹細胞株ST2細胞にLIPUSを20分間照射しながら,脂肪分化または骨分化誘導培地で培養を行い,分化レベルをOil Red O染色及びAlizarin Red S染色と,Realtime RT-PCRによる分化マーカー遺伝子の発現で評価した.またLIPUS照射後にタンパク質を回収し,シグナル分子の活性化をWestern blottingによって調べた.更に各シグナル分子特異的阻害剤とsiRNAを用いて,LIPUS刺激の分化における影響を解析した.
【結果と考察】
ST2細胞をLIPUS照射しながら脂肪分化誘導すると,脂肪滴形成や脂肪分化マーカー遺伝子のFabp4,PPARγ2の発現が抑制された.一方,ST2細胞にLIPUS照射しながら骨分化誘導すると,石灰化物形成と骨分化マーカー遺伝子であるRunx2,Osteocalcinの発現が上昇した.またLIPUS照射は,細胞骨格に係留するROCKと呼ばれるキナーゼを介し,下流のキナーゼカスケード(Cot/Tpl2-MEK-ERK)を活性化して細胞内にシグナルを伝達することが分かった.更にLIPUSによって活性化したERKは,脂肪分化を促進し骨分化を抑制する作用を持つ転写因子であるPPARγ2のリン酸化を誘導した.リン酸化修飾されたPPARγ2はその転写活性が抑制されるため,脂肪分化を抑制し,骨分化を促進したと考えられる.LIPUSは出力や時間を安定して制御でき,照射も簡便なため,細胞分化を制御する上で有用なツールである可能性がある.また,ROCK-Cot/Tpl2-MEK-ERK経路は,細胞のメカニカルストレス受容機構における新たなシグナル伝達経路であると示唆される.