Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断5造影超音波による診療へのインパクト

(S231)

肝硬変例の長期経過予測に対する造影超音波の応用

Hepatic filling rate by a microbubble agent: a novel predictor of long-term outcomes in patients with cirrhosis

関本 匡, 丸山 紀史, 清野 宗一郎, 近藤 孝行, 石橋 啓如, 横須賀 收

Tadashi SEKIMOTO, Hitoshi MARUYAMA, Soichiro KIYONO, Takayuki KONDO, Hiroyuki ISHIBASHI, Osamu YOKOSUKA

千葉大学医学部附属病院消化器内科

Chiba University Hospital, Department of Gastroenterology

キーワード :

【目的】
本邦ではLEVOVISTが2000年に市販され,造影超音波の臨床応用が始まった.肝疾患領域での造影超音波の適応範囲は,当初から進められてきた肝腫瘍の診断に加え,びまん性肝疾患の鑑別診断や線維化の進展度診断などへも広がり,その実用性も認識されるようになった.とくにソナゾイドは低音圧での造影特性に優れ,生理的条件下の循環動態をリアルタイムに映像で捉えることができる.しかし造影所見とその後の臨床経過との関連は十分に検討されておらず,慢性肝疾患例の長期経過における,時間軸上での造影超音波の活用についての報告はない.今回我々は,気泡が肝へ流入して末梢まで充満するに至る一連の循環動態を定量的に解析し,肝硬変の長期経過予測におけるソナゾイド造影超音波所見の意義を考察した.
【方法】
対象は,肝線維化診断に対するソナゾイド造影超音波所見の有用性調査を目的とした前向き臨床研究(当院IRB承認)に参加した肝硬変32例(61.4±10.7歳,37−76;男12,女20)である.肝機能はChild-Pugh A 16例,B 16例で,肝疾患の内訳はHCV 14例,アルコール6例,NASH 4例,AIH 3例,PBC 1例,PSC 1例,HBV 1例,原因不明2例であった.全例,組織学的に肝硬変と診断され,肝腫瘤性病変合併例や門脈血栓例,肝内血管短絡路例は除外した.造影超音波(東芝APLIO-XG,3.75MHzコンベックスプローブ,ソナゾイド0.0075mL/kg)では低音圧条件(MI 0.25)を採用し,右肋間走査で門脈右枝主分枝を含む肝右葉をHarmonic modeにて観察した.保存画像上で肝実質にROIを設定し,時間輝度曲線を求めた.肝動脈での造影発現時間から肝実質での最大輝度到達時間までを気泡充満時間と定義し,臨床経過や予後との関連を検討した.なお対象例の観察期間の中央値は47.4月であった.
【成績】
1.造影所見:肝動脈造影は平均13.4±3.5秒(6−23)で発現し,肝実質での最大輝度到達時間は平均32.1±4.8秒(19−42)であった.気泡充満時間は,平均18.6±4.0秒(11−27,中央値18秒)でChild-Pugh score(平均6.6±1.4,5−9)やMELD score(平均10.9±2.8,7−19)と有意な関連を認めなかった.
2.造影所見と臨床成績との関連:全体での累積生存率は1年96.6%,3年78.6%で,6名が死亡(肝不全5,突然死1),また3名が肝移植をうけた.気泡充満時間中央値(18秒)を基準として二群に分けた場合,両群間で臨床背景(年齢,性別,BMI,血小板,アルブミン値,総ビリルビン値,α-フェトプロテイン値,静脈瘤の有無,腹水の有無)に有意な差を認めなかったが,累積生存率は高充満時間群(≥18秒;93.3%/1年,60.2%/3年)では低充満時間群(<18秒;93.3%/1年,93.3%/3年,p=0.049)群に比べ有意に低値であった.また,累積肝癌発生率は高充満時間群(13.3%/1年,33.3%/3年)では低充満時間群に比べ(6.3%/1年,6.3%/3年,p=0.008),有意に高率であった.
【結論】
気泡充満時間は,肝動脈や門脈,肝実質での末梢血流などを含んだパラメータであり,肝血管抵抗や線維化程度,肝内短絡路の存在といった慢性肝疾患で変化しうる肝循環動態を包括的に評価可能な因子である.本研究で示されたように,その延長例では肝がん発症高リスクかつ予後不良であった.すなわち,肝血流動態と潜在的な肝重症度の関連が示唆された.ソナゾイド造影超音波における気泡動態の解析は,肝硬変例の長期経過予測に期待される.