Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断2組織弾性評価手法の現状と将来動向

(S215)

組織弾性評価手法の最新技術動向

Recent trend in technology of tissue elasticity evaluation

椎名 毅

Tsuyoshi SHIINA

京都大学医学研究科医療画像情報システム学

Graduate school of medicine, Kyoto University

キーワード :

組織の硬さは,第一義的には弾性率で記述される力学的特性であるため,その測定には外力を加え,その際の反応を調べることになる.代表的な外力の与え方は,静的な変形を生じさせる方法と振動を加える方法があり,その結果,実際のエラストグラフィの手法もstrain imagingとshear wave imagingの2つに分類される.
Strain imagingは,外部から応力を加えて組織を変形させてひずみを測定する方法であり,もっとも基本的な用手的圧迫や拍動を用いる方法はstrain elastographyと称される.Shear wave imagingは,体内に剪断波を伝搬させ,その伝搬速度を測定するもので,媒質の密度が一定などの仮定のもとに速度から弾性率を表示する.これらのエラストグラフィは,2003年にstrain elastographyの最初の装置が実用化されてから10年が経過し,乳がん診断をはじめ様々な領域で,その臨床的有用性が認められ,現在では,各社ともその機能をもつ装置を揃えている.このため,日本超音波医学会をはじめ,EFSUMB,WFUMB等でエラストグラフィ診断のガイドラインの制定が行われた.
現在の手法は何れも,線形性や等方性など特性を単純化した組織モデルに基づいたものである.そのため,Bモードと同様,モデルと実際の組織特性との違いにより,アーチファクトが生じるので,その原理の理解と有無の見極めが,適切な診断には重要となる.例えば,strain imagingの場合は体内での応力分布を一様と仮定してひずみを求めるため,鋭角な境界部など応力が集中する箇所では,ひずみが大きくなり実際より軟かく表示されることは良く知られている.また,shear wave imagingでは,軟組織の剪断波の範囲が1〜10m/sと大きく,組織境界での屈折や反射は,縦波にくらべ大きくなる場合がある.特に,悪性腫瘍では周囲組織に比較し,硬くなることから音速の変化する部位であり,また腫瘤内部も不均一な構造や性状を持つことが多いため,屈折や反射による波動現象が強く,そのためにアーチファクトが表れる可能性が高い.
また,ひずみで表される静的な変形による弾性率と,高周波の剪弾波の伝搬速度から求まる弾性率が一致するのは,簡単化された組織モデルの場合で,例えば,粘性が大きい場合は,異なってくる可能性がある.また,肝線維化の評価のように,strainでは,線維化による構造的な要素を含めた硬さを見ているのにたいし,shear waveでは炎症性実際,黄疸による炎症時では速度が増加する報告もあるなど,臨床的に意味するものが異なってくる場合もある.この点については,今後,詳細な検討が必要になろう.
エラストグラフィは,非侵襲,実時間性,簡便性という超音波の特色に,さらに組織性状に関する新たな診断情報の提供を可能にした点で,超音波診断の価値を一層高めるものとなった.一方で,さらに適用範囲の拡大,定量化,3D計測,治療支援など,技術的にも臨床応用の部分でも多くの潜在能力を秘めている.今後,さらに進化し,Bモードとドプラ法に並ぶ超音波画像の基本モードとしての地位を確立していくものと言える.