Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断1救急疾患の超音波診断

(S212)

循環器領域の救急超音波診断〜胸痛の鑑別〜

Echocardiography in the Differential Diagnosis of Chest Pain

山田 博胤1, 2, 西尾 進2, 發知 淳子1, 坂東 美佳1, 西條 良仁1, 佐田 政隆1, 2

Hirotsugu YAMADA1, 2, Susumu NISHIO2, Junko HOTCHI1, Mika BANDO1, Yoshihito SAIJO1, Masataka SATA1, 2

1徳島大学病院循環器内科, 2徳島大学病院超音波センター

1Cardiovascular Medicine, Tokushima University Hospital, 2Ultrasound Examination Center, Tokushima University Hospital

キーワード :

【はじめに】
胸痛をきたす疾患は多岐に及ぶが,急性冠症候群,大動脈解離,肺血栓塞栓症といった放置すれば致死的となる循環器疾患を見落とさないことが最も重要である.これらの疾患の診断には,問診(冠危険因子の有無),身体所見,血液検査,心電図などから得られる情報も必要不可欠であるが,一当ての心エコー図検査で確定診断ができる場合もある.素早い診断は,治療開始までの時間を短縮することになり,患者の救命率のみならず治療後のQOLの向上にも繋がる.
【急性冠症候群】
心電図異常を認め心筋逸脱酵素が上昇している場合,心エコー図検査で局所壁運動異常が確認できれば急性冠症候群の診断確率が限りなく高まる.一方,典型的な心電図異常や心筋逸脱酵素の上昇がなくても,冠動脈の支配領域に対応する局所壁運動低下が観察されれば,不安定狭心症あるいは急性心筋梗塞が強く疑われる.心尖部を含む広範囲前壁に壁運動低下を認めた場合,たこつぼ型心筋症との鑑別が必要かもしれないが,いずれにせよ状態が許せば冠動脈造影を行うほうがよい.心エコー図検査では,乳頭筋断裂に伴う僧帽弁逆流,心室中隔穿孔,心膜液貯留,そして心不全の合併など,冠動脈病変に伴う合併症を評価することもできる.場合によっては,カテーテル室でなく手術室に搬送する必要があるので,その意味でも急性冠症候群の初期対応におけるアプローチとして心エコー図検査は不可欠と言える.
【大動脈解離】
心エコー図検査で大動脈に解離内膜を証明することで診断できる.上行大動脈から大動脈弓に解離を認めるStanford A型の場合には緊急手術の適応となることが多く,エコー検査で上行大動脈に解離内膜が確認できれば,CT室に搬送する前に診断をつけることができる.また,その場合には心膜液貯留や大動脈弁逆流,局所壁運動異常の有無も併せて評価し,術式選択のための情報を提供することもできる.大動脈解離を原因とする急性心筋梗塞は,緊急カテーテル検査ではなく緊急開胸手術を選択する必要があり,心エコー図検査によりその選択が可能である.
【肺血栓塞栓症】
右室の拡大と三尖弁逆流血流速度から肺高血圧を証明することで,その病態が診断できる.血栓自体が観察されることはまれである.多くの場合,下肢の深部静脈血栓症がその発症機転であるため,心エコー図検査に続いて下肢静脈エコー検査を行う.
【まとめ】
心エコー図検査はこれらの疾患の診断に役に立つツールであるが,これら致死的3疾患を否定できるという意味でも有用な検査と言える.また,胸痛の原因となる心臓疾患は上記以外にも,急性心膜炎,大動脈弁狭窄症,肥大型心筋症などがあり,このような疾患も心エコー図検査で診断が可能である.様々な情報を得ることができる検査であるが,救急対応時の検査においてはできる限り短時間で,必要最小限の観察にとどめる配慮も必要である.