Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別企画 領域横断
シンポジウム 領域横断1救急疾患の超音波診断

(S212)

産婦人科領域の救急超音波診断

Emergency ultrasonography of the obstetrics and gynecology

田中 宏和

Hirokazu TANAKA

香川大学医学部周産期学婦人科学

Perinatology and Gynecology, Kagawa University School of Medicine

キーワード :

救急医療の現場において,急性腹症の原因疾患は多岐にわたるが,特に下腹痛を主訴とした女性を対象とした場合に,産婦人科領域の疾患は非常に多く,必ず確認する必要がある.婦人科領域の急性腹症(下腹痛)の原因として代表的なものは,卵巣出血や異所性妊娠に伴う腹腔内出血,卵巣嚢腫・子宮筋腫等の腫瘍性疾患,子宮付属器炎等の炎症性疾患,腟欠損症等の発生異常,その他子宮内膜症や排卵痛等様々な疾患があげられる.産科領域の救急疾患は,偶発合併症を除けば一般に分娩から産褥期の過程で起こることが多く,その臨床経過が最も重要となる.そのため外来の救急で遭遇する産科救急疾患はあまり多くない.妊娠期間中に緊急を要する急性腹症として最も重要な疾患は常位胎盤早期剥離であり,母児ともに大きな危険性を有する疾患であるため,迅速な対応を要する.これらの産婦人科領域疾患の診断において超音波診断法は非常に有用であり,それだけで診断に至ることも多いため,産婦人科領域において超音波検査は通常1st choiceとなっている.そこで今回最近当科で経験した産婦人科領域の救急疾患について超音波所見を中心に症例提示する.
卵巣嚢腫茎捻転:頻度が多く,典型例では捻転によるうっ血に伴う嚢腫内出血による卵巣嚢腫内のirregular internal textureが認められるが,その所見が認められないことも多い.しかしながら卵巣腫瘍の確認と,そこに一致した圧痛があればほぼ診断可能である.
異所性妊娠:卵巣嚢腫茎捻転とともに頻度が多い疾患であるが,本人が妊娠を意識していない事もあり,妊娠可能年齢の女性で腹腔内出血を疑う時は必ず妊娠反応(尿中hCG)を実施する必要がある.妊娠反応が陽性で子宮腔内に絨毛腔(GS)が認められなければ疑われる.一般に注意深い超音波検査で付属器の腫瘤やGSが確認されるが,妊娠部位・週数・出血の状況によってはしばしば困難である.手術の適応は,症状とhCGの値によって判断される.
付属器炎・骨盤腹膜炎:付属器炎では卵管に,endosalpingeal foldの肥厚や卵管終末部のcogwheel signなどの特徴的な超音波像がみられるとされるが,しばしば典型的な所見が確認されない.超音波像の他,内診所見および血液の炎症所見により診断される.
子宮内膜症:近年頻度が増加しており,時として急性腹症の原因となる.月経困難症の臨床経過と,細顆粒状陰影(fine granular echo)を有する卵巣嚢腫より診断される.
その他:付属器炎との鑑別が困難であった虫垂炎の症例を示した.虫垂炎は婦人科救急疾患との鑑別で最も重要な疾患の一つであり,CTなど他の検査を含めて検総合的に判断する必要がある.
常位胎盤早期剥離:妊娠後半に起こる急激な下腹痛と性器出血が特徴的な疾患であり,母児の救命に関わる重要な疾患である.超音波検査で胎盤後血腫を確認すれば確定診断が可能となる.しかし,初期には明らかな胎盤後血腫を確認することは比較的困難な症例もあり,胎盤の肥厚像や胎盤辺縁の不自然な隆起像として観察されることもある.
産科婦人科領域の急性腹症は,患者の年齢,月経歴,発症の経緯,理学所見,妊娠の有無,血液検査の情報を基にして超音波診断を実施することで,殆どの症例で診断が可能となる.したがって女性の下腹痛を診察する場合には,救急診療においてもCTやMRIに先んじて実施されるべき検査であると考える.