Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

共同企画6
光超音波画像研究会・基礎技術研究会共同企画超音波マルチモダリティ技術の最新動向

(S205)

顕微Brillouin散乱法を用いた骨中の縦波音速測定

Longitudinal wave velocity in bone measured by micro Brillouin scattering

松川 真美1, 坪田 遼2, 井本 有紀2

Mami MATSUKAWA1, Ryo TSUBOTA2, Yuki IMOTO2

1同志社大学理工学部, 2同志社大学生命医科学部

1Faculty of Science and Engineering, Doshisha University, 2Faculty of Life and Medical Sciences, Doshisha University

キーワード :

【目的】
In vivo骨診断の臨床ではMHz域の超音波パルス法が使用されており,得られた結果は波長に近い数百μmレベルの微細構造やporosityを強く反映する.このため骨粗鬆症の進行に伴ってダイナミックに変化する海綿骨の構造評価などに有利である.ただし,近年は疾患による骨質変化も重要視されており,よりミクロなスケールにおける骨マトリクスの物性研究が注目されている.現在行われている研究の多くは超音波顕微鏡やナノインデーションによる研究であるが,これらの手法は骨表面から深さ方向の弾性的性質のみを評価するものである[1,2].しかし,骨は不均一かつ異方性の高い材料であり,異方性の把握は重要である.そこで,顕微Brillouin散乱法を用いて,骨中の縦波音速を測定したので報告する.
【方法】
ウシ大腿骨の皮質骨あるいは海綿骨から半透明の薄片試料(厚さ30-100μm)を作成した.同時にX線回折法を用いて試料中のハイドロキシアパタイト(HAp)多結晶の配向を調べ,光学顕微鏡により試料表面の微細構造観察も行った.その後顕微Brillouin散乱法のReflection InducedθA(RIθA)散乱配置を用いて,薄片試料中の縦波音速を測定した.測定領域の大きさは約10μmである.試料中の微細な骨孔を避けて音速分布を測定し,その平均値を試料の縦波音速とした.また,超音波顕微鏡(SAM)を用いて,試料の音響インピーダンス分布を計測し,顕微Brillouin散乱法で得られた音速分布と比較検討を行った.散乱測定中に試料を回転させることにより,薄片試料の面内の音速異方性も測定した.
【結果】
Brillouin散乱測定ではGHz域の音速が測定可能である.得られた音速はMHz域の超音波パルス法より速く,音速の周波数依存性が認められた.また,皮質骨中ではHAp配向量に応じて音速は変化し,HAp量が多いほど音速は増加した.なお,皮質骨,海綿骨中では弱い音速異方性が認められた.異方性は測定部位によっても少しずつ異なるが,ほぼ骨軸(体荷重)方向あるいは骨梁の長手方向で音速が高くなり,一軸異方性の傾向を示した.板状骨梁の間隙に棒状骨梁が存在する大腿骨遠位骨端の海綿骨では,板状骨梁中の音速が棒状骨梁中の音速より低い傾向を示した.この結果は,骨の弾性は一様ではなく,マクロな骨構造とも関連して変化することを示している[3].また,海綿骨梁の同一部位をBrillouin散乱とSAMで比較測定した.音響インピーダンスは音速だけでなく,密度の影響を含むが,実験で得られた音速と音響インピーダンスは比較的よい相関を示した[4].
【結論】
Brillouin散乱測定により,これまで不可能であった骨中の音波物性計測が可能となった.まだ測定領域は10μm程度であるが,今後はより微小領域の測定をおこなうことにより,骨マトリクスの物性計測も可能であると考える.新生骨と成熟骨の違いや,疾患による骨弾性の変化など,in vitroではあるが,今後も様々な評価が可能であると考える.
【参考文献】
[1]K.Raum et.al,Physics in medicine and biology,51,747-758(2006).
[2]T.Hoffmann et.al, J. Biomech.,39,2282-2294(2006).
[3]R.Tsubota et.al, Journal of the acoustical society of America,135,EL 109-114(2014).
[4]M.Kawabe et.al, Journal of the acoustical society of America,132,EL 54-60(2012).