Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

共同企画5
日本超音波検査学会共同企画救急診療に超音波の“知”と“技”を生かす

(S200)

救急診療における心エコー検査の使命

A Cardiovascular Sonographer’s Duty in Emergency Care Medicine

松谷 勇人

Hayato MATSUTANI

公益財団法人天理よろづ相談所病院臨床検査部

Clinical Pathorogy, Tenri Hospital

キーワード :

救急診療の現場では,胸痛,心不全,ショックなどの緊急事態があり,いずれも診断を素早く的確に行い,迅速に治療を行うことが求められる.そして,心エコー検査はそのような緊急事態において,病態の診断と治療方針の決定に重要な役割を担っている.
急性冠症候群か否かの鑑別のための検査依頼では,正確な駆出率を計測することが求められているわけではなく,心筋障害の範囲や駆出率をビジュアル的に確認すること,重篤な機械的合併症が無いかなどを確認することが重要になり,次なる処置が遅れないよう迅速な検査が求められる.逆に,急性肺塞栓症を疑うが,腎機能低下などの理由で安易に造影CT検査が行えない場合や,呼吸困難で心不全を疑っている場合などは,正確な心内圧の推測や,収縮能だけでなく拡張能などの心機能評価が必要となる.このような検査依頼では,限られた時間内で診断のために必要とされるデータを漏らすことなく収集することが重要である.
また,大勢のスタッフが患者の周りを取り囲み,人工呼吸器や補助循環装置などでエコー装置がなかなかベットサイドに持ち込めないような状況では,手軽な携帯エコーが有用であり,その場合は,携帯エコーで評価できる範囲を他の処置の邪魔にならないように簡潔に検査する事が求められる.心肺蘇生の最中などで,経胸壁心エコー法で十分な評価が出来ない場合は,経食道心エコー法を用いることにより,侵襲的ではあるものの,ほぼ全例で鮮明な画像を得ることが出来る.特に急性大動脈解離の診断や合併症の評価に有用であり,当院では時間外の緊急時であっても対応できるような体制をとっている.
このように,救急診療の現場であっても,求められている内容,出来る内容は異なっており,医師からの指示をあおぐだけでなく,現場の空気を読んで柔軟な思考とバリエーションを備えて検査に臨む必要がある.そして,心エコー検査の限界を把握し,時には他のモダリティーに委ねるといった判断も必要となる.
緊急心エコー検査を医師が行う場合は,臨床経過や背景を把握した上で確診または否定を得ることを目的として検査を行うため,見たいところのみの検査で終わってしまうことがあり,当院でも,画像データが全く残っていないということがしばしばある.来院直後に施行した検査の画像データが残っていない場合,来院後しばらくして患者が急変した時に,急変を来たし得る特徴的なエコー所見があったかどうかを確認するすべはない.そのため,危機的状態でない限り日常検査と同様の検査手順で記録する事を心がけており,それによって,データファイリングはもちろんのこと,経過観察に使用できるデータが残こることや,予想もしなかった異常を発見する事にもつながる.
救急診療の現場では,今,そして次に何をすべきなのかの選択を迫られるが,そこで我々エコー技師がどのような立ち振る舞いが出来るかは,シミュレーションで培うものではなく,そういった現場を多く経験することでしか身につけることは出来ない.患者の状態と緊急現場の空気を読み,検査スタイルを臨機応変に変え,リアルタイムな情報を提供する事が我々エコー技師の使命と考える.