英文誌(2004-)
共同企画4
日本脳神経超音波学会共同企画頸動脈エコーガイドライン統一に向けて
(S197)
プラークの組織性状診断
Ultrasonographic Characterization of Carotid Plaque
長束 一行
Kazuyuki NAGATSUKA
国立循環器病研究センター脳神経内科
Neurology, National Cerebral and Cardiovascular Center
キーワード :
プラークの組織性状診断に関してはこれまでに多数の報告があるがあり,これまでのガイドラインにおいても,エコー輝度,均一性,可動性などについて評価を行うよう記載がなされてきている.エコー輝度に関しては最も報告数も多く,低輝度が脂質や血腫,等輝度が繊維性組織,高輝度が石灰化を反映するとされてきた.エコー輝度の評価における問題点として,まず実臨床ではほとんど定性的な評価であり,術者や診断機器およびその設定により評価が異なることがあげられる.定量的評価法についてはGray Scale Median(GMS)やIntegrated Back Scatter(IBS)による定量化が有用であるとの報告が数多くある.しかし両者ともに自動化されていないため,定量値を算出するのに手間がかかり臨床現場での普及は現時点で困難である.
均一性に関しては,組織性状を評価する上で有用と考えられるがやはり定量が出来ておらず,定義もあいまいであり,術者により評価が異なる.
可動性に関してはまだまだデータが少なく,可動性になる原因も多岐にわたると考えられている.定量化することも困難であり最も術者による影響の大きい所見と考えられる.
超音波造影剤を用いた新生血管の評価も病理組織との対比が行われ,新生血管との関連は確実にあると考えられる.しかし第2世代の超音波造影剤は頸動脈に保険適応されておらず,静注が必要であるために医師が現場に必ずいる必要があり,定量化の問題も残されている.
上記のものはプラーク内の組織性状診断に関するものであるが,プラーク破綻からイベント発症にいたるには繊維性被膜の情報も重要である.内部が粥腫で構成されていても皮膜が厚ければ破綻する危険性は低い.潰瘍の存在は皮膜が破綻した結果であるので重要な情報である.これまでの頸動脈エコーにおける潰瘍の定義は2mm以上の陥凹となっているが,診断機器の進歩によりより小さな潰瘍も検出可能であり,超音波造影剤を用いるとより小さな破綻も検出可能である.定義を変更することにより潰瘍のイベント発生に関わるリスクも変化する可能性がある.
頸動脈エコーによるプラーク性状診断の問題点は共通しており,どれも臨床現場で気軽に行えるような定量化法が普及していないということである.これは方法論的な問題もあるが,組織性状診断によりどのようなメリットが得られるのかという点が解決していないことにも問題がある.すなわち,まず組織性状診断によりプラークが脳梗塞を発症するか否かの判断材料となり得るかということが未解決である.これまでの報告は少数例の短期間での検討が多く,一方で治療法は大きく進歩してきているために,無症候性頸動脈狭窄が脳梗塞を発症する頻度は低く,多数例を長期間フォローする必要がある.また治療効果の判定に有用との報告もあるが,まず定量化できるようにならないと実臨床には使えず,その変化がイベントの抑制につながるかまで調べるためにはまだまだ長時間を要する.現時点では実際に可能なレベルでの組織性状診断の標準化と,組織性状診断にどの程度のエビデンスがあるのかを明らにして,依頼者,術者が共通の認識を持つことが必要と考えられる.