Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2014 - Vol.41

Vol.41 No.Supplement

特別講演
特別講演

(S174)

放射線と甲状腺がん:広島・長崎,チェルノブイリ,そして福島 —医療従事者の役割と責任—

Radiation and Thyroid Cancer: Hiroshima, Nagasaki, Chernobyl and now Fukushima 
─ Roles and Responsibilities of Medical Professionals ─

長瀧  重信

Shigenobu NAGATAKI

長崎大学名誉教授 放射線影響協会理事長,第12回国際甲状腺学会会長,アジア大洋州甲状腺学会名誉会長

Professor Emeritus, Nagasaki University, and President, Radiation Effects Association
President, 12th International Thyroid Congress, and Honorary President, Asia and Oceania Thyroid Association

キーワード :

はじめに:福島県で超音波スクリーニングにより多数の小児甲状腺がん患者が発見された,患者はもちろん,県民全体が原発事故による放射線被ばくの結果ではないかと心配するのは当然である.その心配の対応に貢献することは医療従事者の役割であり責任であろう.
疫学的対応:甲状腺癌も多くの固形癌と同じく,発見された患者さん個人の臨床的病理的な診断方法でも,遺伝子レベルの検査でも,放射線起因性を決定することは出来ない.したがって,放射線起因性は疫学的調査方法によってのみ可能であり,その起因性はリスクとして示される.
 疫学的調査のためには,目標を念頭に調査集団の確定,調査集団の被ばく線量測定,調査集団の疾患の診断・登録,そして線量相関を求めることになる.さらに,交絡因子(Confounding factor, 放射線以外で疾患に影響を与え得る因子)の存在を常に念頭に置くことを忘れてはならない.そして福島の疫学的調査結果を,既に長期間追跡調査されている過去の人類の経験と比較することによってリスクの比較は可能になる.
 疫学的対応の基本に沿って福島の現在の調査状況,今後の方向についての演者の考え方を述べる.
医療従事者の役割と責任:放射線を大量に被ばくすれば人は死亡する.しかし,人類は発生した時から自然放射線に被ばくし続けており,そのレベルの放射線の健康影響は存在しない.被ばく線量と放射線の健康影響の関係は過去の人類の経験により判断するしかないが,低線量放射線の影響には,不明,不確実の部分が少なくない.
 一方,医療人は患者を目の前にして無為に逡巡することは許されない.医学的に不明,不確実な部分があっても,その時点の知識で,患者の健康状態を少しでも改善させることが医療従事者の役割であり責任である.健康状態の改善とは,患者に関するあらゆる面を考慮した健康状態の改善である.勿論放射線の影響だけではない.
 医療人として被災者に接することは信頼を獲得するうえで大切である.被災者に寄り添い,具体的に健康に関して対話を継続する場合,医療従事者には放射線に関する正確な基本的知識が必須である.疫学調査の結果,将来の方向,解釈などもその中に入る.
 一方,放射線と全く関係なく,医療として各疾患の診断,治療の大系がある.甲状腺がん,乳がん,前立腺がん,など多くの疾患の診断,治療の基準,スクリーニングの功罪が国内外で繰り返し議論されている.この医療人としての知識も被災者の対話に必須である.
まとめ:原爆を経験し放射線の健康影響を世界に発信してきた日本が今度は予想もしなかった原発事故に見舞われた.原発事故に関しても日本は世界のモデルになる被災者に寄り添った医療人としての対応を示すべきであると念願している.