井口 研子¹, 清松 裕子², 池田 達彦², 田中 優子¹, 坂東 裕子¹, 近藤 譲³, 原 尚人¹

Akiko IGUCHI¹, Hiroko KIYOMATSU², Tatsuhiko IKEDA², Yuko TANAKA¹, Hiroko BANDO¹, Yuzuru KONDO³, Hisato HARA¹

¹筑波大学医学医療系乳腺甲状腺内分泌外科, ²筑波大学附属病院乳腺甲状腺内分泌外科, ³筑波大学附属病院病理部

¹Department of Endocrinal Surgery and Breast Surgery, Faculty of Medicine, University of Tsukuba, ²Department of Endocrinal Surgery and Breast Surgery, University of Tsukuba Hospital, ³Department of Pathology, University of Tsukuba Hospital

キーワード :

【目的】
甲状腺超音波検査において，嚢胞性病変は高頻度に認める所見であり，そのほとんどが腺腫様甲状腺腫などの嚢胞形成である．しかし嚢胞内に乳頭状に隆起するような充実性部分が認められる場合には，嚢胞形成乳頭癌（嚢胞化乳頭癌）である可能性があり，鑑別を要する．特に嚢胞内の充実性部分が，形状不整，カラードプラ法で結節に血流が豊富な場合，微細高エコーが多発する場合，充実性部分が10mmを超える場合は穿刺吸引細胞診を施行するべきであるとされる．一方で，嚢胞形成乳頭癌の頻度はそれほど高いものではないため，嚢胞内に充実性部分を認める結節に対し穿刺吸引細胞診を施行すると結果的には多くの症例が良性と判明すると考えられる．良性腫瘍に対してはできる限り穿刺吸引細胞診の施行を減らすことが望ましく，超音波検査による鑑別診断の向上に努めるべきであると考える．超音波検査による鑑別診断の向上を目指し，嚢胞内腫瘤像を呈する甲状腺腫瘍の超音波所見と組織型の対比を行い，組織型別の超音波所見の特徴について検討した．
【対象】
過去5年間に当院にて超音波検査を施行した甲状腺疾患のうち，嚢胞内腫瘤像を呈し，穿刺吸引細胞診または手術検体による病理組織診にて病理学的評価が行われている症例を対象とした．穿刺吸引細胞診でinsufficientと判定され，病理組織診が行われていないものは除外した．
【結果】
穿刺吸引細胞診あるいは病理組織診で乳頭癌と診断された症例の超音波所見は，嚢胞の形状不整と，充実性部分の形状不整，内部エコー不均質で点状高エコーを伴い，血流シグナルを比較的豊富に認める傾向があった．穿刺吸引細胞診あるいは病理組織診で濾胞性腫瘍と診断された症例は，嚢胞の形状は比較的整，充実性部分の形状も比較的整で広基性，内部エコーはやや不均質，血流シグナルを豊富に認める傾向があった．穿刺吸引細胞診で良性，あるいは病理組織診で腺腫様甲状腺腫と診断された症例は，嚢胞の形状は比較的整だが，充実性部分の所見は多様であり，形状比較的整，内部エコーは比較的均質あるいは小嚢胞変性を伴い，血流シグナルを認めないものもあれば，形状不整，内部エコー不均質で点状高エコーを伴い，血流シグナルを豊富に認めるものもあった．
【考察】
嚢胞内腫瘤像を呈する甲状腺腫瘍に関し，今回の検討で乳頭癌と濾胞性腫瘍についての超音波所見の特徴はある程度捉えることができた．穿刺吸引細胞診で良性，あるいは病理組織診で腺腫様甲状腺腫と診断された症例は，超音波所見が多様であり，特徴を捉えることは容易ではなかった．ただしこれらの症例には，穿刺吸引細胞診のみ施行され病理組織診が行われていないものが多く含まれており，乳頭癌や濾胞性腫瘍の可能性を完全には否定できないと考えた．嚢胞内腫瘤像を呈する甲状腺腫瘍の組織型を超音波検査にて鑑別診断することは容易ではないが，今後さらに検討を重ね，鑑別診断の向上に努めたい．