Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般ポスター
腎泌尿器:腎泌尿器

(S677)

超音波検査が診断に有用であった腸腰筋血腫の一例

Ultrasound diagnosis of Iliopsoas Hematoma: a case report

中村 雅美1, 西谷 暁子2, 位藤 俊一2, 水野 均2, 飯干 泰彦2, 山村 憲幸2, 藤井 仁2, 藤井 亮知2, 人羅 俊貴2, 伊豆蔵 正明2

Masami NAKAMURA1, Akiko NISHITANI2, Toshikazu ITOU2, Hitosi MIZUNO2, Yasuhiko IIBOSHI2, Noriyuki YAMAMURA2, Hitoshi FUJII2, Ryochi FUJII2, Toshiki HITORA2, Masaaki IZUKURA2

1独立行政法人りんくう総合医療センター検査科, 2独立行政法人りんくう総合医療センター外科

1Department of Clinical Laboratory, Rinku General Medical Center, 2Department of Surgery, Rinku General Medical Center

キーワード :

【はじめに】
腸腰筋血腫は抗凝固療法や血友病などの血液疾患に合併する稀な疾患であるが,今回我々は凝固療法中外傷に伴う腸腰筋血腫の診断において超音波検査(US)が有用であった症例を経験したので報告する.
【症例】
74歳,男性.
【主訴】
発熱,腰痛,下腿疼痛.
【現病歴】
鼠径ヘルニア術前入院中.近医にて抗血小板薬投与されていたためヘルニア手術のために入院後にヘパリン化をしていたところ発熱と転倒後腰痛が出現した.
【既往歴】
前立腺癌術後,糖尿病,高血圧,脳梗塞,左片麻痺.
【入院後経過】
右鼠径ヘルニア手術目的のため入院.近医で投薬されていた抗血小板薬を中止しヘパリン化のため入院.入院第7病日に転倒し腰部打撲.同日37.8度の発熱出現.翌日40.2度の熱発と腰痛,皮下出血斑を認めた.
【発症時検査所見】
WBC 2,660μ/l,RBC 264万/μl,Hb8.6g/dl,PLT 8.8万/μl,PT 75%,APTT 49.2秒,AST 91IU/l,GPT 46IU/l,CPK 2712IU/l,BUN 33.5mg/dl,CRE 1.67mg/dl,CRP 4.4mg/dl,D-Dimer8.93/ml 血糖64mg/dl,血液培養陽性,尿潜血・蛋白陽性,尿中細菌(1000個/ml以下).
【超音波検査所見】
発症2日目に右腸腰筋内に56×46×81mmの多房性の低〜無エコー領域を認めた.内部には鏡面像を認め,内部の微細エコーは中央で腹壁側から背側にかけて沈降,流動する像が観察された.カラードプラ法では腹側の筋層内に血流シグナルを認めた.パルスドプラ法では最高血流速度15cm/sの拍動波を認めた.腸腰筋の腹壁側には不整な低エコー域を認め出血の広がりを疑った.
【CT検査所見】
右大腰筋内にfluid-fluidレベルを形成した液貯留を認めた.周囲脂肪織には索状の濃度上昇を認め感染を伴う可能性も否定できなかった
【経過】
全身状態安定のためヘパリン投与を中止し保存的治療となった.発症6日目のUSで出血部のサイズは増大していたが内部エコーは無エコーから不均一高エコーに変化し,カラーシグナルは消失していた.発症14日目にはサイズは縮小傾向を示した.発症23日目には鼠径ヘルニア(mesh plug法),内尿道切開術を行い退院され外来フォロー中である
【考察】
腸腰筋血腫の原因には特発性,外傷性によるものがあり,特発性は血友病,肝硬変,抗凝固療法などによる報告が多くみられる.症状として下腹部痛や鼠径部痛,背部痛,臀部痛などの痛みや股関節の伸展障害,大腿神経麻痺をきたし腸腰筋肢位を呈するようになる.治療法は抗凝固療法の中止,凝固因子の補充,安静の保持といった保存的治療と経皮的ドレナージや血腫除去術,動脈塞栓術となる.貧血の進行や下腿麻痺,制御困難な疼痛の出現を伴う場合は外科的な治療方法が選択される.本症例では大腿神経麻痺や伸展障害なく保存的治療が選択された.腸腰筋血腫の診断にはCTが有用とされ,単純CTでの高吸収領域が特徴的とされている.また,USでは血腫の内部エコーの経時的変化を確認することで診断が可能とされる.本症例は前立腺癌術後の吻合部狭窄により尿路感染を伴っていたため膿瘍との鑑別を要したが,USにて腫瘤内にB断層像での微細エコーの流動性と拍動性の血流シグナルを認めたことにより血腫の診断が可能であった.
【まとめ】
USにて診断が得られた腸腰筋血腫の一例を経験した.