中村 学¹, 安田 英明¹, 後藤 孝司¹, 橋本 智子¹, 橋ノ口 由美子¹, 澤 幸子¹, 井上 真喜¹, 北洞 久美子¹, 坪井 英之², 森島 逸郎²

Manabu NAKAMURA¹, Hideaki YASUDA¹, Takashi GOTOU¹, Satoko HASHIMOTO¹, Yumiko HASHINOGUCHI¹, Sachiko SAWA¹, Maki INOUE¹, Kumiko KITAHORA¹, Hideyuki TSUBOI², Itsurou MORISHIMA²

¹大垣市民病院診療検査科形態診断室, ²大垣市民病院循環器内科

¹Department of Clinical Research, Ogaki Municipal Hospital, ²Department of Cardiology, Ogaki Munitipal Hospital

キーワード :

【目的】
心エコー図による左室壁運動の位相解析に対する期待は大きい．これまで左室内同期不全の評価は組織ドプラ法により行われていたが，組織ドプラ法は超音波入射角度の影響を強く受けるため多数の領域の評価は困難で，左室同期不全の診断あるいは心臓再同期療法の効果予測に万全な指標とはなり得なかった．最近，角度依存性の少ないスペックルトラッキング法が開発され臨床利用されているが，それを用いた左室同期不全指標についての妥当性は未だ明らかではない．今回，2-Dスペックルトラッキング心エコー法（2-DST）を用いた左室同期不全の指標とより客観的な心電図同期心筋SPECTによる指標について比較検討した．
【対象および方法】
心筋症，虚血性心疾患や不整脈による重症心不全患者12例（男性9例，女性3例：平均65±14歳）を対象とした．全例，同時期に2-DSTと心電図同期心筋SPECTを施行した．2DST は，東芝社製Aplio500を用いて傍胸骨左縁左室短軸（乳頭筋レベル）断層像をスペックルトラッキング法で解析し，前壁中隔・前壁・側壁・後壁・下壁・中隔の6領域について左室短軸方向ストレイン曲線を作成した．左室同期不全の指標は，前壁中隔と後壁の2領域におけるストレイン曲線にてそれぞれ最大ストレイン値となる時相の差（Radial Strain Delay Index：RSDI）および 6領域間の最大時相差（MRSD），6領域それぞれの最大ストレイン値となる時相の標準偏差（RSDSD）を算出した．心電図同期心筋SPECT は，局所容積曲線微分解析ソフトcardioGRAFで解析し，左室を17領域に分割し各領域の容積曲線を作成した．各領域の容積曲線にて，それぞれQ波から収縮末期までの時間（Time End Systric：TES）を計測した．左室同期不全の指標は，17領域のTESの標準偏差（SPECT-Dyssynchrony Index：SPECT-DI =17領域TES-SD／R−R間隔×100）を算出し，2-DSTの各指標との相関をみた．
【結果】
RSDIはSPECT-DIとr=0.32，p=0.316，MRSDはSPECT-DIとr= 0.25，p=0.437，RSDSDはSPECT-DIとr=0.24，p=0.453といずれも有意な相関関係を認めなかった．
【考察】
今回，2-DSTと心電図同期心筋SPECTの左室同期不全指標の間に有意な相関関係を見出せなかったことは，症例数が不十分であったことや比較的重症の心不全例を対象にしたことに起因するものと思われる．また，2-DSTは左室短軸（乳頭筋レベル）断層像の6領域での評価であり，それに対しSPECTは3次元で17領域での評価であることも要因の一つと考えられる．今後，軽症心不全例も含め，症例を集積し検討していきたい．
【結論】
2-Dスペックルトラッキング心エコー法を用いた左室同期不全の評価には，更なる検討が必要であると思われた．