Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
整形外科:整形外科

(S628)

大腿骨膝関節軟骨の正常像と厚みの検討

The study of normal ultrsonic image forfemur hyaline cartilage

石崎 一穂1, 今野 由梨2

Kazuho ISHIZAKI1, Yuri KONNO2

1東京厚生年金病院中央検査室, 2文京学院大学保健医療技術学部臨床検査学科

1Central Clinical Laboratory, Tokyo Kousei-nenkin Hospital, 2Clinical Laboratory Medicine, Bunkyo Gakuin University

キーワード :

【はじめに】
今回我々は,膝関節症(膝OA)の早期診断と原因解明の一助になる基礎データを作成するため,超音波で直接評価が可能な大腿骨膝関節軟骨を観察し,膝関節軟骨の厚さの基準値と正常軟骨像の性状に関して検討したので報告する.
【対象と方法】
対象は,本検討に同意をいただいた17歳から87歳(平均46歳)の本院職員,看護学生および患者128名の女性,256膝とした.全例膝の痛みや障害・外傷による外来通院及び治療経験がないことを確認し,超音波診断装置を用いて大腿骨遠位端関節軟骨荷重部(以下荷重部軟骨)の性状を観察し軟骨の厚さを計測した.さらに,大腿骨内側の骨棘形成と半月板の評価も行った.日本人に好発する,内側のみの軟骨厚を計測した.荷重部軟骨は,仰臥位における膝の最大屈曲位で,短軸及び長軸像で性状を評価し,計測は膝蓋骨内側に位置する荷重部軟骨に長軸でアプローチしプローブを内側に傾け関節軟骨表面の境界が明瞭な線状高エコーとして描出される位置で行った.計測ポイントは,関節軟骨表面である高エコーラインの上縁から軟骨下骨の上縁までを関節軟骨の厚さとして計測した.
【検討内容】
①軟骨の表面像,軟骨のエコー輝度,厚さの均等性の検討.②軟骨厚の左右差の検討.③大腿骨遠位端関節軟骨の厚さと年齢と加齢の検討.④大腿骨遠位端関節軟骨の厚さの基準値の検討.⑤大腿骨遠位端内側骨棘形成および内側半月板の性状の検討.超音波診断装置・プローブはHITACHIアロカ社製Ascendus・18MHz高周波リニア型プローブを使用した.
【結果】
①軟骨の性状は全例,境界面は明瞭な線状高エコーを呈し表面は整であった.軟骨は無エコー均質,厚さは均等であった.②軟骨厚は平均値±1SDが右1.65±0.30mm,左1.68±0.31mmと有意差は無かった.③軟骨厚と年齢との相関関係は年齢との関係は相関係数r=−0.3と有意な相関関係は得られなかったが,近似曲線を描くと若年層でやや厚い対数曲線を呈した.各年代別の荷重部軟骨厚(最低〜最高:平均mm)は,10歳代1.4〜2.3:1.99mm,20歳代1.1〜2.6:1.78mm・30歳代1.0〜2.2:1.62mm・40歳代1.1〜2.5:1.67,50歳代1.0〜2.4:1.57,60歳代以降1.2〜2.0:1.57,70歳代1.2〜1.9:1.51,80歳代1.3〜2.2:1.58と,10歳代および20歳代と他の年代との間に有意差を認めた.④各年代の荷重部軟骨厚の最低は,1.0mm下回る厚さは認められなかった.⑤全例骨棘形成は無く,半月板も高エコー均質で脱臼を呈する例もなかった.
【考察】
膝OA軟骨の変性,菲薄化,半月板脱臼など超音波検査で直接評価可能な変化を呈する疾患である.今回は,膝OAの疑いのない女性を対象に正常な軟骨像の検討を行った.関節軟骨の性状は表面が整で明瞭な境界面を呈し,軟骨自体は無エコー均質に描出され,厚みも均等で,左右差も認めず,70〜80%が水成分の均質な媒質である正常な軟骨の組成を呈していた.また加齢による性状の変化もないことがわかった.軟骨厚に関しては,10歳,20歳代と他の年齢との間に有意差を認めたが,年齢との相関関係からは,有意な相関関係は得ず,厚みの最低値も1.0mmと加齢による軟骨の菲薄化への影響は示唆されなかった.以上のことから,高齢者に多い膝OAの荷重部軟骨の変性や菲薄化は,加齢による荷重部軟骨の変性と菲薄化が原因では無いと考えられた.今回,膝OAに多い骨棘形成や半月板の異常所見が確認されなかったことから,今後は膝OA患者も含め,加齢と骨変化や半月板の状態と荷重部軟骨の変化との関係を検討する必要性がある.