Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
体表臓器:乳腺Ⅱ

(S615)

ARFIを利用したエラストグラフィおよびshear wave伝搬速度における粘液癌の検討

Combination of elastography and shear wave velocity measurement using the ARFI technology for the diagnosis of mucinous carcinoma

磯部 幸子1, 戸崎 光宏2, 山口 実紀1, 小川 ゆかり1, 里見 理恵1, 斎藤 雅博3

Sachiko ISOBE1, Mitsuhiro TOZAKI2, Miki YAMAGICHI1, Yukari OGAWA1, Rie SATOMI1, Masahiro SAITO3

1亀田メディカルセンター超音波検査室, 2亀田メディカルセンター乳腺センター/乳腺科, 3持田シーメンスメディカルシステム持田シーメンスメディカルシステム

1Division of Ultrasonographic Examination, Kameda Medical Center, 2Breast Center, Kameda Medical Center, 3Mochida Siemens Medical Systems, Mochida Siemens Medical Systems

キーワード :

【目的】
近年,音波放射力(ARFI)を利用して音響的に組織の歪みを画像化する方法が開発された.ACUSON S2000(Siemens社製)に搭載されているVirtual Touch Tissue Imaging(VTTI)はARFIを利用して組織の変位量を検出し,硬さの違いを画像化する定性的な硬度判定である.柔らかい組織は高輝度に,硬い組織では低輝度に表示される.一方Virtual Touch Tissue Quantification(VTTQ)は定量的な硬度判定で,目的とする領域にROIを設定し,ARFIでshear waveを発生させている.この伝搬速度が測定され,組織の硬さが数値で画面上に表示される.硬い組織ほど伝搬速度は速く,数値は高く表示される.これまで当院では,VTTI画像で病変の内部構造の詳細が観察可能であることから,粘液癌や濃縮嚢胞の鑑別に有用性が高いと考え発表してきた.しかし粘液癌においてはVTTIの経験から線維腺腫と鑑別を要する症例が少なくない.また一般的にもB-mode画像で線維線種と類似した像を呈することも多く鑑別が困難と考えられている.粘液癌の頻度は乳癌全体で3%程度と少ないが,今回,粘液癌と線維線種に焦点を置きVTTI画像にVTTQのshear wave伝搬速度を加えて粘液癌の鑑別の有用性を検討した.
【対象と方法】
2010年10月から2012年10月にVTTIとVTTQを施行し,病理組織学的に粘液癌と診断された15例,線維腺腫と診断された40例の腫瘤性病変55例を対象とした.まず,VTTIは病変の内部輝度を視覚的に評価した.次にB-mode上で病変の横径を計測し,この計測ラインをVTTIの画像上にも反映させ,両画像での病変の大きさを比較した.shear wave伝搬速度はROIの設定位置を病変内部,正常な組織を含んだ病変の辺縁(2カ所)と定め,計測はそれぞれの位置で3回施行し,病変の内部および辺縁の平均速度を比較した.
【結果】
粘液癌のVTTI画像は7例が低輝度な表示で,8例は病変内部に高輝度と低輝度が混在する不均一な表示であった.病変大きさいずれもB-modeと同等な大きさであった.shear wave伝搬速度は病変内部の平均が5.20m/s(4.14−6.65 m/s)であったが,15例中13例の病変内部の伝搬速度は測定不能であった(X.XX m/s).辺縁の平均は4.90m/s (1.69−7.81m/s)であった.線維腺腫のVTTI画像は36例が低輝度に表示され,このうち28例はB-modeと同等な大きさで,8例はB-modeよりも小さい表示であった.病変の内部に高輝度と低輝度が混在し不均一に表示されたのは1例で,管内型を主体とする線維腺腫であった.大きさはB-modeと同等な大きさであった.残りの3例は病変の輪郭が不明瞭で周囲組織と同じグレースケール表示された.shear wave伝搬速度は,病変内部の平均が2.64m/s(1.18−4.92m/s),辺縁は平均2.36m/s(1.15−4.56m/s)であった.
【考察】
VTTI画像で低輝度に表示された粘液癌は線維腺腫と類似し,VTTI単独で鑑別することは困難であった.しかし病変辺縁のshear wave伝搬速度は粘液癌で線維腺腫よりも高く,辺縁の測定は病変の真の硬さを示していないが,より高い値は悪性を鑑別する指標になると考える.また,病変内部の測定は線維線腫の全例で測定可能であったにも関わらず,13例の粘液癌は測定不能であった.これは,内部の豊富な粘液により十分に剪断歪みが生じず,shear waveを発生させることができなかったことが主な原因と考えられる.また,VTTI画像で内部不均一を呈した粘液癌はこれまで発表や報告を行なってきたように内部の粘液や癌巣,隔壁などの不均一な混在を反映しているものと思われ,VTTQの評価を加えることで更なる鑑別が可能であると考える.
【結語】
VTTI画像にVTTQのshear wave伝搬速度を加味することは粘液癌の鑑別に有用であると考える.