梅本 剛^{1, 2}, 松村 剛³, 藤原 洋子³, 坂東 裕子⁴, 東野 英利子⁵, 山川 誠⁶, 三竹 毅³, 椎名 毅⁷, 森島 勇¹, 植野 映¹

Takeshi UMEMOTO^{1, 2}, Takeshi MATSUMURA³, Youko FUJIHARA³, Hiroko BANDO⁴, Eriko TOHNO⁵, Makoto YAMAKAWA⁶, Tsuyoshi MITAKE³, Tsuyoshi SHIINA⁷, Isamu MORISHIMA¹, Ei UENO¹

¹公益財団法人筑波メディカルセンター診療部門乳腺科, ²筑波大学附属病院乳腺甲状腺内分泌外科, ³日立アロカメディカル株式会社第二メディカルシステム技術本部, ⁴筑波大学医学医療系乳腺内分泌外科学, ⁵公益財団法人筑波メディカルセンターつくば総合健診センター, ⁶京都大学先端医工学研究ユニット, ⁷京都大学大学院医学研究科

¹Department of Senology, Tsukuba Medical Center Foundation, ²Department of Breast and Endocrine Surgery, Tsukuba University Hospital, ³Medical Systems Engineering Division 2, Hitachi Aloka Medical, Ltd., ⁴Faculty of medicine, Breast and Endocrine Surgery, University of Tsukuba, ⁵Total Health Evaluation Center Tsukuba, Tsukuba Medical Center Foundation, ⁶Advanced Biomedical Engineering Research Unit, Kyoto University, ⁷Graduate School of Medicine, Kyoto University

キーワード :

【はじめに】
Real-time Tissue Elastography （以下エラストグラフィ）を用いた乳腺疾患の臨床診断において，つくば弾性スコア（ES）や，脂肪と病変部とのひずみの比（strain ratio）を求めたFat-lesion ratio（FLR）が提案され，広く用いられるとともに，これらの臨床的な有用性が報告されている．われわれが行なっている，摘出検体を用いた乳房内各組織の弾性係数測定の結果から，ESやFLRの有用性について，基礎的な背景からの検討を行ったので報告する．
【対象】
平成19年5月以降，乳腺疾患に対する手術が予定された術前に説明および同意文書を用いて承諾を得たのちに弾性係数測定を行なった乳腺疾患症例のうち，原発性乳癌26例（非浸潤性乳管癌6例，乳頭腺管癌7例，充実腺管癌3例，硬癌7例，特殊型3例）を対象とした．
【方法】
摘出直後（ホルマリン固定前）の手術検体から，対象病変および周囲組織（脂肪，正常乳腺）を含む，約5mm厚のサンプルを作成した．専用の硬さ測定機（インストロン社3342型）を用いて，体温条件を想定した温度管理および一定の初期加重のもと，毎分1mmの速度で標本に圧を加え，圧縮ひずみ30％まで対象病変および周囲組織の弾性係数（Young’s modulus）を測定した．組織変性による測定結果や病理組織診断への影響を最小限とするため，一連の測定は手術検体摘出後2時間以内に行われた．弾性係数は応力基準にて評価し，術前エラストグラフィにて得られたES所見やFLR値，病理組織所見との対比を行った．
【結果】
脂肪組織から得られた弾性係数は，各症例の年齢や閉経状況などによらず，ほぼ一定であった．病変部から得られた弾性係数は，各症例により異なり，ES所見別に分布をみると，良悪性のカットオフとされるスコア3/4間にて，弾性係数の差が顕著に認められた．病変部から得られた弾性係数と脂肪組織から得られた弾性係数の比（FLRym）を求めると，FLRymとFLR値とが比較的よく一致する応力条件が認められた．
【まとめ】
乳房内各組織の弾性特性の違いは，エラストグラフィにより高精度に画像化されていると考えられた．摘出検体から得られた組織弾性の基礎的な背景からも，ESやFLRの臨床的な有用性ならびに判定基準の妥当性が示唆された．
※本研究は筑波大学附属病院および筑波メディカルセンターの倫理委員会より承認を得ている．