Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
産婦人科:MRI

(S583)

全前置胎盤との鑑別が困難であった前置血管の一例−前置血管発生機序についての考察−

A case of vasa previa which is difficult to make a differential diagnosis from placenta previa totalis

高水 藍, 平崎 真由子, 野上 直子, 松丸 葉月, 中嶋 友美, 田嶋 敦, 野島 美知夫, 吉田 幸洋

Ai TAKAMIZU, Mayuko HIRASAKI, Naoko NOGAMI, Hazuki MATSUMARU, Tomomi NAKAJIMA, Atsushi TAJIMA, Michio NOJIMA, Koyo YOSHIDA

順天堂大学医学部付属浦安病院産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Juntendo university Urayasu Hospital

キーワード :

【緒言】
前置胎盤は,受精卵が正常の着床部位である子宮体部の子宮内膜ではなく,子宮下部の子宮内膜に着床した結果,胎盤が内子宮口を完全に覆うものである.一方,前置血管は低置胎盤に合併しやすいことが知られているが,その発生機序については必ずしも明らかではない.今回,MRIおよび超音波経腟走査法によって全前置胎盤と診断し,予定帝王切開術を行ったところ,肉眼所見および病理所見上,内子宮口直上に臍帯付着部を持つ,胎盤実質が一部欠損している前置血管の例を経験したので報告するとともに,前置血管の発生メカニズムについて考察したい.
【症例】
31歳1経妊1経産(経腟正常分娩),既往歴に特記事項なし.妊娠34週で全前置胎盤のため周産期管理目的に当院に紹介受診となった.MRI上子宮体部前壁から,内子宮口全体を覆う全前置胎盤であったが,経腟超音波診断上は内子宮口直上には血管の走行を認めるものの胎盤実質の存在は明らかではなかった.また臍帯付着部は経腟および経腹超音波上,内子宮口直上であると考えられた.妊娠36週2日,全前置胎盤の診断で予定帝王切開術を施行した.術中超音波を用い,胎盤を避けるように体部縦切開施行し児を娩出した.児は2580g,男児,Apgar7/10点.出生後TTNを認め,酸素投与を行った.術中の出血量は羊水込みで1470gであった.手術後,胎盤を確認したところ内子宮口を覆っていた部分のみ胎盤実質は欠損しており,その部位に臍帯付着部が存在し,臍帯は卵膜付着であった.
【考察】
前置胎盤は受精卵が子宮下部に着床したことによって形成されるものと考えられるが,子宮下部の血流が不良であると,胎盤への血流低下がおこり胎盤実質の欠損につながると考えられる.このことは,低置胎盤に伴う前置血管の発生を支持するものである.本症例は,もともと子宮前壁から子宮下部を中心に着床したが,子宮下部の血流不全により徐々に内子宮口付近の胎盤実質への血流が滞り,梗塞巣を形成したため胎盤実質が欠損し非薄化した結果,臍帯卵膜付着および前置血管となったと考えられる.病理学的にも胎盤の臍帯付着部付近の羊膜直下には梗塞巣があり,ゴースト化した絨毛を認めた.一方,本症例のような場合,全前置胎盤症例と比較すると,子宮下部筋層からの血流が低下しているため,通常の前置胎盤よりも胎盤剥離面からの出血は多くないことが予想されるが,本例においても術中・術後の出血量は平均的であった.
【結語】
全前置胎盤において内子宮口付近の血流低下が認められるような部位では胎盤実質は梗塞し,血管のみが露出するため前置血管となりうる可能性がある.このことは低置胎盤に伴う前置血管の発生を支持するものであると考えられた.全前置胎盤の例であっても,内子宮口直上の所見は詳細に検討する必要があり,このような検査には超音波経腟走査法,およびカラードプラ法の有用性が高い.