Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
消化器:血流

(S550)

肝静脈ガス血症の超音波所見

Ultrasonography findings of hepatic vein gas

津田 恭子, 紺野 啓, 神田 美穂, 宮本 倫聡, 鯉渕 晴美, 武井 ひろみ, 大澤 正明, 谷口 信行

Kyoko TUSDA, Kei KONNO, Miho KANDA, Michiaki MIYAMOTO, Harumi KOIBUCHI, Hiromi TAKEI, Masaaki OOSAWA, Nobuyuki TANIGUCHI

自治医科大学臨床検査医学

Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
門脈内ガス(門脈ガス血症)の診断において超音波はきわめて有用であり,超音波による診断・報告例の増加に伴いその臨床的意義も変化しつつあるのが現状である.これに対し,救急医療領域においては必ずしもまれではないとされる肝静脈内ガス(肝静脈ガス血症)の超音波による診断・報告例は,我々が知る限りごくわずかに過ぎない.これまでの報告では,肝静脈ガス血症の多くはCTで診断されることが多いが,門脈ガス血症と比較して診断が難しく,両者の鑑別も時に容易ではないとされている.こうした症例でも,超音波であれば,任意の観察断面により,ガスの動きをリアルタイムに観察することが可能なため,診断も門脈ガス血症との鑑別も容易と考えられる.今回,我々は,日常の超音波検査の対象患者においては比較的まれと考えられ,その診断に超音波が極めて有用であった肝静脈ガス血症を経験したので,門脈ガス血症例と対比を含め報告する.
【症例1(肝静脈ガス血症)】
60歳代,女性.基礎疾患に,シェーグレン症候群,間質性腎炎があり,経口ステロイドを内服中であった.経過中に敗血症を発症し,当院に紹介入院となった.超音波検査で,肝左葉実質内にガスエコーと考えられる複数の高エコーを認め,下大静脈,左および中肝静脈の観察では,内腔に多量のガス像を認め,心拍動に伴うto and fro motionが観察された.ガスの存在と存在部位は明瞭であり,肝静脈ガス血症と診断した.超音波検査後直ちに主治医に確認したところ,検査約4時間前に右大腿静脈より中心静脈カテーテルを挿入留置されていたことが判明し,これとの関連が疑われた.念のため検査3時間後に施行した腹部CTでは肝臓内にガス像は認めなかった.
【症例2(門脈ガス血症)】
60歳代,女性.9年前に強皮症と診断され,経口ステロイドを内服中であった.食欲の低下があり,精査目的で入院した.腹部超音波検査上,門脈右枝内にガス像を認め,ガスが門脈内を中枢から末梢に移動するのが観察された.また,小腸の一部に著明な拡張を認め,壁の一部と考えられる部位に,ガスエコーと考えられる無数の弧状の高エコーと音響陰影を認めたため,腸管気腫症とそれに伴う門脈ガス血症と診断した.腹部単純X線写真にて小腸の著明な拡張と壁内の無数のガス貯留像を認めたことより,腸管気腫症が確認された.
【考察】
肝静脈ガス血症は救急領域においては必ずしもまれではなく,CTでは大腿静脈にカテーテルを認める患者の14.5%に肝静脈内のガスが確認されたとする報告がある.また例外を除き,一般には特に治療を要さないと考えられている.従って,本症が観察された場合,自験例のようにまず中心静脈カテーテル留置の有無を確認することが重要で,これが確認できればそのまま経過観察が可能と考えられる.これに対し,門脈ガス血症は時に重篤な病態を背景とし,背景病変への積極的介入が必要となるため,両者の持つ臨床的意義は大きく異なり,両者の鑑別もきわめて重要である.これまでの報告によればCTでは門脈ガス血症の診断が比較的容易であるのに対し,肝静脈ガス血症の診断は必ずしも容易ではないとされる.しかし自験例に見られたように,超音波では脈管の描出・同定が容易でリアルタイムの観察が可能なため,ガスの存在とその存在部位の同定がきわめて容易で,両者の鑑別もまた容易である.同様のことはこれらよりはるかに頻度の高い胆管気腫症にも当てはめることができ,肝臓内にガスを認める症例では,超音波検査によりその存在部位を確認することが,診断上,最も重要と考えられる.