Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
循環器:症例Ⅱ

(S494)

心エコー図検査で非典型的所見を呈したLocalized Aortic Dissectionの一例

Localized Ascending Aortic Dissection without Typical Echocardiographic Findings

武本 梨佳1, 麻植 浩樹1, 杜 徳尚2, 渡辺 修久1, 田辺 康治1, 永瀬 聡2, 河野 晋久2, 佐野 俊二3, 伊藤 浩2

Rika TAKEMOTO1, Hiroki OE1, Norihisa TOH2, Nobuhisa WATANABE1, Yasuharu TANABE1, Satoshi NAGASE2, Kunihisa KOUNO2, Shunji SANO3, Hiroshi ITO2

1岡山大学病院超音波診断センター, 2岡山大学循環器内科, 3岡山大学心臓血管外科

1Center of Ultrasonic Diagnostics, Okayama University Hospital, 2Department of Cardiovascular Medicine, Okayama University, 3Department of Cardiovascular Surgery, Okayama University

キーワード :

【症例】
37歳 男性
【主訴】
胸痛
【現病歴】
2011年11月,突然の冷汗を伴う胸痛を自覚し,前医に救急搬送された.その際の胸部単純CTで大動脈基部の拡大・心嚢液貯留を認め,大動脈解離が疑われた.胸部造影CTでは解離,flapは明らかでないが,大動脈壁弓部までの肥厚を認めた.急性期は除痛と安静にて経過観察されたが,手術を含めた精査加療目的に当院へ転院となった.
【当院入院時現症】
身長167cm,体重48kg,血圧123/84mmHg,左右差なし,指極/身長比<1.05,呼吸音清,心雑音を聴取せず.末梢動脈触知良好左右差なし.既往歴;腎移植(IgA腎症),気管支喘息,アトピー性皮膚炎.大動脈解離の家族歴なし.当院搬送時には胸部症状は認めず,血液検査では白血球,CRP,Dダイマーはいずれも基準値内,心電図ではST変化などを認めなかった.経過より大動脈解離を疑い経胸壁・経食道心エコー図検査および胸部造影CT検査の再検,MRI検査を施行した.心エコー図検査では,左室拡大は認めず,左室駆出率は54%と保たれていた.上行大動脈近位部の拡大(50mm)が見られ,左冠尖の上方30mm付近に可動性の乏しい線状構造物が観察された.大動脈弁は3尖弁,弁尖の逸脱は認めず,中心部より軽度大動脈弁逆流を認めた.典型的な大動脈解離の所見(明らかなflap, entry site, flap周囲の異常血流)は認めず,大動脈の他部位に異常所見は認めなかった.少量心嚢液を認めたが前医の所見と比較しやや減少傾向であった.胸部造影CTでは大動脈基部の軽度の拡張と,大動脈起始部左側壁から連続する線状構造物が認められた.胸部造影MRIも同様の所見であった.
【経過】
症状,臨床経過,各種画像診断所見からは大動脈解離が疑われたため,後日,大動脈基部置換術が行われた.術中所見では大動脈基部の拡大,大動脈起始部より3cm遠位側の局所的な内膜の解離が認められた.大動脈弁,遠位大動脈はIntactであり,合併症無く手術は終了し術後経過は良好であった.
【考察】
本症例では,局所に限局した動脈解離を呈し,経食道心エコー図検査では典型的な解離flapの所見は認められなかった.このように非典型的な所見を呈するLocalized Aortic Dissectionの存在を念頭に置き,手術のタイミングを逸することのないよう心がける必要があると考えられた.