中村 昭宏¹, 堀米 仁志¹, 瀬尾 由広², 石津 智子², 青沼 和隆²

Akihiro NAKAMURA¹, Hitoshi HORIGOME¹, Yoshihiro SEO², Tomoko ISHIZU², Kazutaka AONUMA²

¹筑波大学小児内科, ²筑波大学循環器科

¹Department of Child Health, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, ²Cardiovascular Division, Institute of Clinical Medicine, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba

キーワード :

【背景】
ファロー四徴症根治術後患者（rTOF）では，肺動脈弁逆流（PR）が残存することによって右心系容量負荷がかかる結果，右室拡大およびQRS幅の拡大が生じる．このため，ほとんどのrTOFでは右心系の拡大が生じていることが確認出来るが，あまりに感度が良すぎるため「右心系が拡大している」という指標だけでは情報価値が乏しい．一方，近年では右心系の拡大が左室機能にも影響を与えていることが示され，特に左室長軸方向ストレイン（LV-LS）が生命予後に強く関係していると報告されている．
【目的】
rTOFにおけるLV-LSと右室拡張末期容積（RVEDVi）の関連性を評価した．
【対象】
7歳以上20歳以下のrTOF群（N=20）およびcontrol群（N=15）．
【方法】
経胸壁心エコーを施行し2Dデータを用いてLV-LSを計測した．また，3Dデータにて記録した画像をTomtec imaging systemを用いてRV volumeを解析し体表面積で補正した値をRVEDViとして算出した．また，肺動脈弁逆流率（PRF）を算出するために同ソフトを用いて両心室の1回拍出量を算出し，（右室1回拍出量-左室1回拍出量）／右室1回拍出量の式に数値を代入して算出した．
【結果】
rTOFはcontrolに比較してQRS幅が延長しているが（120（80-160） vs.80（74-96）, p＜0.001），全例が180msec以下であった．LV-LSは特に心尖部自由壁部位にてrTOFが低値であった（15.5±4.7 vs. 28.3±7.2, p＜0.001）．また，LV-LS（apex）とRVEDVi, PRFはそれぞれ良好な相関関係を示した（r= -0.567, p=0.001. r= -0.628, p＜0.001）．
【考察】
心臓MRIを用いた検討では両心室の駆出率は比較的良い相関関係を示していたことが既に報告されていることからも心室間相互作用（RV-LV interaction）が存在することが指摘されている．右室拡大に伴うrTOFの左室心筋障害を早期に同定するためには左室駆出率より左室strainの方がより微細な左室機能障害を同定出来ると考えられる．RV-LV interactionを引き起こす要因は，両心室間に共有した心筋繊維が存在する，心室中隔の奇異性運動が心室機能に悪影響を及ぼしていること，同一心膜で覆われた空間において右心系の拡大が左室の動きに制限を加えていることなどが考えられる．そして，本検討では全例QRS幅＜180msecであり，軽症であってもRV-LV interactionが存在することが示唆された．また，今回は経胸壁3Dエコーデータを解析，算出した両心室の容積および駆出率を用いた検討であるが，既知の報告と同様に左室駆出率と右室駆出率には緩やかな相関関係を認めており（r=0.451, p=0.008），3Dデータの有用性を示している．
【結論】
ファロー四徴症根治術後患者はPRによりRVEDViが拡大し，QRS intervalの短い症例群においてもLV-LSが低下した．