Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
循環器:心・血管腫瘍

(S453)

乳腺悪性葉状腫瘍の心臓転移の一例

A Case of Cardiac Metastasis of Malignant Breast Phyllodes Tumor

松原 剛一1, 井川 剛1, 宮木 真里2, 石黒 清介3, 西村 元延3, 山本 一博1

Koichi MATSUBARA1, Go IGAWA1, Mari MIYAGI2, Kiyosuke ISHIGURO3, Motonobu NISHIMURA3, Kazuhiro YAMAMOTO1

1鳥取大学医学部病態情報内科, 2鳥取大学医学部附属病院検査部, 3鳥取大学医学部器官再生外科学

1Division of Cardiovascular Medicine, Department of Molecular Medicine and Therapeutics, Faculty of Medicine, Tottori University, 2Division of Clinical Laboratory, Tottori University Hospital, 3Division of Organ Regeneration Surgery, Department of Surgery, Faculty of Medicine, Tottori University

キーワード :

【はじめに】
転移性心臓腫瘍は比較的まれな疾患であり,症状に乏しく進行するものが多く,生前に診断,治療されることは少ない.今回我々は,胸部造影CTで偶然発見された,乳腺悪性葉状腫瘍の心転移症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
【症例報告】
症例は54歳女性,20XX年XX月乳腺葉状腫瘍に対し右乳房,大胸筋切除術+右腋窩リンパ節廓清術を施行,その後化学療法を施行されていた.半年後の胸部単純CTでは有意な所見を認めていない.1年後より労作時の息切れが出現,定期followの胸部造影CTで右室,肺動脈本幹に造影欠損像を認め当科に紹介.経胸壁心エコーでは右室自由壁に広基性に付着し,可動性に乏しい,右室から右室流出路にまで達する内部エコー不均一で血流のない,表面不整の32×58mmの構造物を認めた.心室中隔の左室への圧排所見あり,構造物は三尖弁には達していないが三尖弁の開放制限を認め,三尖弁収縮期圧較差=60mmHgと右室流出路狭窄によると思われる収縮期右室圧高値を認めた.FDG PETにて同部位に強い集積を認め,腫瘍塞栓の再発予防,血行動態改善を目的として右室腫瘍切除術を施行したところ,腫瘍は広基性に右室に浸潤し右室自由壁を貫通,また乳頭筋を巻き込んでおり,完全摘出は不可能であった.組織所見は肉腫の所見であり,乳腺悪性葉状腫瘍の心臓転移と診断した.術後経胸壁心エコーでは,右室内から右室流出路に腫瘍は残存していたが術前より減少し,三尖弁収縮期圧較差も29mmHgと低下しており,右室流出路狭窄は改善したと考えられた.
【考察】
葉状腫瘍は全乳房腫瘍の0.5%〜1%以下,その内の2.8〜12%に転移を認め,転移した乳腺悪性葉状腫瘍の9%が心臓へ転移すると報告されており,乳腺悪性葉状腫瘍の心臓への転移は比較的まれである.心臓転移による臨床症状として特徴的なものはなく,かなり終末期まで無症状のことが多いが,腫瘍塊による腫瘍塞栓,本症例のような流出路狭窄により,心不全あるいは突然死を来すこともある.悪性腫瘍の心転移に対する治療は,転移が心臓のみに限局し原発巣がコントロールされているならば,これら重篤な症状に対する対症療法としての外科切除の意義は小さくない.ただし,症状が出る以前の心転移に対する早期診断を目的とした定期的な心エコー等をどのくらいの頻度で行うべきか,考えさせられる症例であった.