Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
循環器:血管Ⅰ

(S450)

血流のマルチスケールシミュレーションによる頸動脈および上行大動脈のWI計測の検討

Simulation of Wave Intensity in the Ascending Aorta and Common Carotid Artery using Multi-Scale Blood Flow Simulation

阿部 亮太1, 仁木 清美1, 大島 まり2, 藤沢 慶2, 高木 周3, 梁 夫友4, 菅原 基晃5

Ryota ABE1, Kiyomi NIKI1, Mari OOSHIMA2, Kei FUJISAWA2, Syu TAKAGI3, Fuyou LIANG4, Motoaki SUGAWARA5

1東京都市大学大学院生体医工学専攻, 2東京大学大学院情報学環・学際情報学府, 3東京大学大学院機械工学専攻, 4上海交通大学船舶与海洋工程系, 5姫路獨協大学臨床工学科

1Biomedical Engineering, Tokyo City University, 2Interfaculty Initiative in Information Studies, Graduate School of Interdisciplinary Information Studies, University oh Tokyo, 3Mechanical Engineering, University oh Tokyo, 4School of Naval Architecture, Ocean & Civil Engineering, Shanghai Jiao Tong University, 5Medical Engineering, Himeji Dokkyo University

キーワード :

【背景】
Wave Intensity (WI)は,心血管系の干渉を考慮した心機能指標であり,後負荷の影響を受けている病的心臓の動作状態,脳血管を含む末梢循環の病的状態の解析に有用である.WIは,超音波診断装置を用いて血圧波形と血流速度を非侵襲的に計測し,それらの時間微分の積により導出することができる1).しかし,現在のところリニアプローブによってのみ計測が可能であるため,主に頸動脈のWI解析が行われている.もし上行大動脈において血圧と血流速度を得ることができれば,上行大動脈のWIを計算することが可能となり,心臓と動脈系の干渉を評価する上で,さらに有用な情報を得ることができると考えられる.血流マルチスケールシミュレーションモデル3)は全身血流のシミュレーションが可能なモデルである.本研究ではこのモデルを用いて頸動脈WIを計算し,実測されたWI波形と比較するとともに上行大動脈のWIを計算し検討した.
【シミュレーション概要】
血流マルチスケールシミュレーションモデルは全身の血液循環を考慮したLiangモデル2)と脳循環部分と外頸動脈分岐部分を組み合わせることで構築されており,1次元解析と0次元解析を組み合わせることによって生体における物理現象の再現を図っている3).1次元解析は,流れに旋回がなく軸対称な弾性体の円管を仮定しており,血管壁の弾性から生じる圧力脈波の伝播の影響を考慮した軸方向の流れ解析である.基礎方程式として,連続の式,ナヴィエ・ストークス方程式,圧力の状態方程式を用いて数値計算を行っている.一方,0次元解析とは,Lumped parameter modelを用いることで物理現象の再現を図っており,末梢血管,毛細血管,静脈,心臓等に適用されている.
【方法】
健常者成人男性25歳,75歳各1名を対象として総頸動脈においてWI計測を行った(使用超音波診断装置:日立アロカ社製SSD6500).また,血流マルチスケールシミュレーションモデルを用いて25歳,75歳成人の頸動脈および上行大動脈の血圧・血流速度のシミュレーションを行い,得られた波形データよりWIを計算した.
【結果】
シミュレーションから得られた総頸動脈WI波形は,実測された波形と同様に駆出初期前進波を反映する正の波(W1),脳循環からの反射波を示す負のNA波,駆出後期の膨張波(W2)を認めた.W1, W2のピーク値は実測値と大きな差はなかったが,75歳モデルでは最大血管径が9mmと正常より拡大し,最大血流速度が低下していた.一方,上行大動脈のWIでは同様にW1とW2を認めたが,脳循環からの反射波(NA)は明瞭ではなく,体循環からの幅広い反射波を認めた.
【結論】
血流マルチスケールシミュレーションモデルを用いて総頸動脈と上行大動脈のWI波形の違いを示すことが可能ある.ただし,より正確なシミュレーション作成には血管径等,可変データを増やすことが必要であると考えられた.
【参考文献】
1)Kiyomi Niki, Motoaki Sugawara, “A new noninvasive measurement system for wave intensity: evaluation of carotid arterial wave intensity and reproducibility” -Heart Vessels (2002) 17:12-21
2)Fuyou Liang, Shu Takagi, “Multi-scale modeling of the human cardiovascular system with applications to aortic valvular and arterial stenosis” -Medical & Biological Engineering & Computing, July 2009, Volume47, Issue 7, pp 743-755-
3)前田郁,“マルチスケール血流解析のための脳循環モデルの構築” -日本機械学会バイオフロンティア講演会講演論文集 巻:22nd ページ:69-70 -