Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
基礎:超音波ガイド下治療に向けてーHIFU-

(S445)

早期乳癌用USガイドHIFUシステムの開発−HIFUビームの位相制御技術の検討

Development of an Ultrasound Guided HIFU System for early Breast Cancer: Precise Phase Control method based on time riversal

鳴見 竜太1, 東 隆1, 沖田 浩平4, 藤原 圭祐3, 竹内 秀樹3, 射谷 和徳3, 佐々木 明1, 葭仲 潔2, 高木 周1, 松本 洋一郎1

Ryuta NARUMI1, Takashi AZUMA1, Kouhei OKITA4, Keisuke FUJIWARA3, Hideki TAKEUCHI3, Kazunori ITANI3, Akira SASAKI1, Kiyoshi YOSHINAKA2, Shu TAKAGI1, Yoichiro MATSUMOTO1

1東京大学工学部, 2産業技術総合研究所ヒューマンテクノロジー研究部門, 3日立アロカメディカル技術開発部, 4日本大学生産工学部

1School of Engineering, The Univ. of Tokyo, 2Human Technology Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 3Engineering R&D Dept., Hitachi Aloka Medical, 4College of Industrial Technology, Nihon Univ.

キーワード :

【背景】
近年,診断モダリティの進歩や乳がん検診の普及により,早期乳癌の発見率が向上している.早期乳癌では,患者のQOL・整容性の観点から,乳房温存療法などのより低侵襲な治療が望まれている.我々は強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound: HIFU)を用いた乳癌の低侵襲治療技術を開発している.
【目的】
HIFUを正確で安全な低侵襲治療技術として確立するために,生体内での正確な超音波ビーム形状や焦点音圧の把握と,その高精度な制御が必須である.これまでHIFU治療装置の評価は音速が均一な水中で評価されており,生体中での音速や減衰率の不均一が与える影響の評価に関しては十分ではなかった.本研究では,シミュレーションを用いた生体内不均一がHIFUビームに与える影響を評価したので,報告する.また不均一の影響を小さくする焦点位置制御手法に関しても評価したので,その結果も合わせて報告する.
【計算】
乳腺組織のMRI三次元データに対し,ノイズ除去処理,画像の輝度にもとづいた乳腺組織と脂肪の判別,皮膚の設定を行い,生体モデルとした.計算には3次元FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて波の伝搬を計算した.HIFUビームは,我々が現在開発している素子数56のアレイ型トランスデューサを用いた.周波数は2 MHz,焦点距離,開口径は100 mmである.中心部にイメージング用の探触子を設置するための口径40mmの穴が開いている.脂肪,乳腺組織,皮膚の音速はそれぞれ文献値により1465,1547,1615 m/sとした[1,2].また焦点制御法としては,アレイ型トランスデューサを用いた時間反転位相制御法を応用した.トランスデューサの各素子に与える位相値は,数値シミュレーションによる時間反転法により得た.この手法は,まず目的部位に仮想的に点音源を設置し,その点音源から発信された超音波をトランスデューサ各素子で受信する.次に,受信した各素子の信号に対して,参照となる信号を基に相互相関をとり,相関値が最大となる位相を位相遅延の値とするものである.
【結果】
音速が均一な場合は幾何学的焦点にHIFUビームが収束したのに対して,乳房をモデル化した計算では焦点が3つに分裂し,その位置も幾何学的な焦点から数mmずれていることが確認された.これに対し,皮膚のみのモデルと脂肪+乳腺のモデルに分解してそれぞれの音速不均一による効果を検討した.その結果,皮膚のみのモデルではビームの変形は小さかった.一方,脂肪と乳腺のモデルでは3つの組織を全てあてはめたモデルとの違いは小さく,焦点誤差は,主に脂肪/乳腺の音速不均一構造に起因することを確認した.更に本来の焦点位置に仮想の点音源を設定し,素子上で音波を受信,その位相分布を用いて時間反転法によるHIFU照射をシミュレーションした結果,乳房の不均一構造を伝搬した後でも幾何学的な焦点に収束することが確認出来た.ただし焦点近傍に,焦点の音圧に比べて半分程度の音圧のサイドローブが複数存在し,精度の良い時間反転法を行うには素子数56では不十分である可能性が示唆された.
【結語】
乳房の音速不均一構造により,大きな焦点誤差が生じる可能性が示唆された.その焦点誤差は,時間反転法に基づいた焦点制御により大きく低減できる可能性を確認した.乳房による焦点誤差は,主に脂肪/乳腺の音速不均一構造に起因することを確認した.
【謝辞】
本研究の一部は,システム疾患生命科学による先端医療技術開発拠点(TSMBI)の支援を受けて行われた.
【参考文献】
[1]ICU REPORT 61
[2]T. D. Mast, “Empirical relationships between acoustic parameters in human soft tissues”, 2000