Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

一般口演
基礎:その他Ⅲ

(S442)

複数の音響キャビテーション効果を用いたがん治療に関する基礎検討

On tumor treatment with multiple cavitational effects

川畑 健一, 浅見 玲衣

Ken-ichi KAWABATA, Rei ASAMI

株式会社日立製作所中央研究所メディカルシステム研究部

Medical Sysmtems Research Department, Central Research Laboratory, Hitachi, Ltd.,

キーワード :

【緒言】
超音波の医用応用は,診断のみに留まらず,治療への展開も活発である.超音波を用いることで,適切な造影剤・増感剤と組み合わせ,超早期でがん組織を可視化し,その部位を選択的・低侵襲的に治療する早期診断・治療システムが可能と考えられるためである.我々は,このような腫瘍の診断・治療統合システムを実現するため,高い造影能を持つマイクロバブルと,高い腫瘍到達性を示すナノ微粒子のそれぞれの長所を両立できる造影・増感剤の開発を行なっている.体内投与時はナノサイズの液滴で,超音波パルスにより目的部位のみで気化しマイクロバブルを生成する,相変化ナノ液滴(PCND)と名づけたこの微粒子型の造影・増感剤は,超音波照射により部位選択的にマイクロバブルを生成し,かつ,音響キャビテーションの核および超音波加熱作用の増強剤となることが明らかになってきた.これまでに,このようにして生成したキャビテーションの熱的あるいは機械的作用が腫瘍治療に適用可能であることがわかっている.今回,色素増感剤の添加により,これらの作用に加え,化学的な作用も生成可能なことがわかった.この化学的な作用と熱的効果と組み合わせた,効率の良いがん治療に関する基礎検討結果について,報告する.
【実験方法】
PCNDは,以下の手順で調製した.低沸点化合物としてC5F12 を,高沸点化合物としてC6F14 を用い,それらをリン脂質を用いてエマルションとする.さらに,高圧乳化処理を行い直径約400nm (静的光散乱により測定)の粒径PCNDを得た.この液滴からのマイクロバブル生成およびキャビテーション生成を音響的に測定した.また,増感剤を用いた活性酸素生成は,APF(Aminophenyl Fluorescein)からの蛍光強度を指標として用いた.色素増感剤としては,ローズベンガル(RB)を用いた.また,超音波照射は水槽中にて37℃あるいは50℃にて行った.
【結果と考察】
周波数1MHzの超音波を用い,PCND単独あるいはPCND+RBについて,活性酸素の生成を溶液中にて進行波条件で測定した.PCNDなしでは音響キャビテーションが生じない100W/cm2の強度においても,PCNDの存在により有意に音響キャビテーションが生成することが音響的に確認された.ただし,活性酸素生成は,RB(0.1mM)の添加時のみ観察された.このことから,RBと共存させることにより,PCNDを用いた音響キャビテーションの化学的効果生成が可能であることがわかった.続いて,ゲル中にPCND単独あるいはPCND+RBを封じ込め,500W/cm2の音響強度で超音波を照射した際の温度上昇を熱電対により測定した.その結果,RBにより温度上昇が約1.5倍程度高くなることがわかった.ここで,先に行った,溶液でのPCND+RBの実験を50℃にて行ったところ,活性酸素生成は1.5倍程度に上昇した.このことから,PCNDとRBとを共存させた状態で超音波を照射すると,キャビテーション生成の促進により温度上昇と化学作用生成とが同時に進行することが期待される.拡散性に優れる化学的な効果と即効性に優れる熱的な効果との双方の利点を活用した治療が可能になると考えられるため,今後更なる検討を行う.
【謝辞】
本発表の一部は,総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラムにより,日本学術振興会を通して助成されたものである.