桑原 崇通¹, 廣岡 芳樹², 伊藤 彰浩¹, 川嶋 啓揮¹, 中村 正直¹, 大野 栄三郎², 平松 武¹, 杉本 啓之¹, 鷲見 肇¹, 後藤 秀実^{1, 2}

Takamichi KUWAHARA¹, Yoshiki HIROOKA², Akihiro ITOH¹, Hiroki KAWASHIMA¹, Masanao NAKAMURA¹, Eizaburo OHNO², Takeshi HIRAMATSU¹, Hiroyuki SUGIMOTO¹, Hajime SUMI¹, Hidemi GOTO^{1, 2}

¹名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学, ²名古屋大学医学部附属病院光学医療診療部

¹Gastroenterology and Hepatology, Nagoya University Graduate school of Medicine, ²Department of Endoscopy, Nagoya University Hospital

キーワード :

【目的】
Elasticity Imaging （shear wave法）（以下EI）は，組織内にshear wave（剪断弾性波）を発生させ，その速さの測定により組織の弾性率（kPa）を算出する方法である．EIにより臓器の組織弾性を弾性率として定量化することが可能となったが，膵に対する報告は少ない．今回，再現性のある膵弾性の測定方法の確立と，疾患別の弾性を示すことを目的として検討を行った．
【方法】
2012年10月から11月までの2か月間に，膵に対してPhilips社製iU22（elastPQ）を使用して，EIにより膵の弾性率を測定した50例（平均年齢62.8歳，男性：女性，30：20）を対象とした．疾患の内訳は正常膵34例，慢性膵炎10例，膵癌4例，腫瘤形成性膵炎2例であった．2009年慢性膵炎臨床診断基準を満たす例を慢性膵炎例，満たさない例を正常例と定義し，膵癌と腫瘤形成性膵炎は手術または組織診により診断を得た．慢性膵炎と正常膵は，膵頭部または膵体部，膵癌と腫瘤形成性膵炎は病変部の弾性率を測定した．弾性率は，同じ部位にて5回の評価可能な値を得られるまで繰り返し測定し，5回の弾性率の平均値を算出した．全測定回数に対し，弾性率を測定し得た回数の割合を測定成功率と定義し，測定成功率が60％以下のものは検討から除外し，以下の3項目につき検討した．1） 正常膵における測定成功率と，測定成功率に寄与する因子（年齢，性別，BMI，皮下脂肪，膵と体表の距離，膵と大動脈の距離）．2） 正常膵における弾性率の測定回数，3）各疾患別の膵弾性率の比較．統計学的手法として1），2），3）に関してそれぞれ，Spearmanの順位相関係数，級内相関係数（ICC），Kruskal-Wallis test・Mann-Whitney U-testを使用した．
【結果】
1）測定成功率は平均80.6％であった．全50例中，45例が検討対象，5例が検討対象外となった．検討対象外5例中2例が測定不能，3例が測定成功率60％以下であった．測定不能の原因は膵の描出困難，測定成功率60％以下の原因は血管の拍動による影響であった．測定成功率と相関する因子については，膵と腹部大動脈との距離のみ有意に相関（r_s=0.65：P＜0.01）を示した．2）膵弾性率を被験者に1回測定した時の級内相関係数ICC（1,1）はρ=0.451（95％CI：0.29-0.61），5回測定した時の級内相関係数ICC（1,5）はρ=0.80（95％CI：0.68-0.89）で，5回測定で95％CIの下限値がρ=0.60を超えた．膵弾性率の有意な再現性が高い測定は5回以上測定が必要であった．3）正常膵，慢性膵炎，膵癌，腫瘤形成性膵炎の弾性率（kPa）は3.30±1.87・9.45±7.06・18.1±16.1・44.1±31.5であった．正常膵に比して膵癌と慢性膵炎の弾性率は有意に弾性率が高かった（膵癌：P=0.012・慢性膵炎：P=0.001）．膵癌例の背景膵，腫瘤形成膵炎の背景膵は，3.57±1.84，12.42±5.37であった．背景膵に比して膵癌と腫瘤形成膵炎の弾性率は共に有意差は認めなかった（膵癌：P=0.07・腫瘤形成膵炎：P=0.11）．
【結論】
膵弾性を再現性高く測定可能なElasticity Imagingは，新たな膵疾患診断法の一つになり得ると考える．