Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 腎泌尿器
パネルディスカッション3 <科学に活かす> 超音波を用いた腎・泌尿器領域の各臓器血流測定とその意義

(S344)

前立腺肥大症における急性尿閉の危険因子としての血管抵抗係数

Resistive index as risk factor for acute urinary retention in patients with benign prostatic hyperplasia

栗田 豊, 新保 斉, 伊藤 寿樹

Yutaka KURITA, Hitoshi SHINBO, Toshiki ITOH

JA静岡厚生連遠州病院泌尿器科

urology, JA shizuoka koseiren ensyu hospital

キーワード :

【研究目的】
超高齢化時代の到来と排尿障害に対する社会的認識の向上にともない,前立腺肥大症(Benign Prostatic Hyperplasia: BPH)の診療機会が泌尿器科医はもちろんのこと,非泌尿器科医においても増加している.一方,BPHに対する治療法は,本疾患がQOL病であることから,手術療法以外に薬物療法や低侵襲治療など患者のQOLを見据えた種々の新しい治療法が開発されている.この多岐にわたる治療法の選択に際し,治療前に疾患の重症度判定を正確に行うことが必要である.とりわけ急性尿閉(AUR)への移行はBPH患者のQOLを著しく低下させる.BPH患者において,経直腸超音波断層法(TRUS)で得られた種々のパラメーターが自覚症状および尿流測定のパラメーターと相関関係があるか,さらにAURのリスクを予測することが可能か検討する.
【対象】
2004年1月から,当科を受診した下部尿路症状(手術希望およびAURを含む)を有する1917名の前立腺肥大症患者(48-88歳)を対象とした.内,245名はAURを主訴に受診した.除外項目としては,血清クレアチニン>1.5mg/dl,慢性尿閉例,前立腺癌,神経因性膀胱,急性前立腺炎,尿道狭窄,および前立腺手術の既往例とした.
【方法】
患者は左側臥位をとり,経直腸超音波プローブ(Aloka社製 SSD-α10: 7.5MHz end-fire type probe)を直腸内に挿入し前立腺を観察する.前立腺の大きさが最大になる横断面と矢状断面で前立腺体積(TPV: total prostate volume),前立腺移行帯体積(TZI: transition zone volume)を測定する.また,ドプラモードでは,Rifkin らと Neumaier らの方法に準じて,前立腺の被膜動脈を同定し,その脈波を測定する.収縮最大期と拡張終期から計算式によりRI(Resistive index)値を算出する(RI=(Vmax-Vmin)/Vmax).全ての患者に経直腸超音波検査を施行し,TPV,移行帯体積比(TZI:transition zone index),など従来から用いられている BPH の指標とパワードプラ法で得られた RI 値を測定し,国際前立腺症状スコア(IPSS)と最大尿流量率(Qmax)との相関を統計学的に検討する.さらに,AUR例と非AUR例の群間比較を行い,IPSS, QOL, age, PSA, TPV, TZIおよびRIにおいて有意差を求め,AURの予測因子としてのage, PSA, IPSS, QOL, TZI, RIのROC曲線下面積を算出する.
【結果】
AUR例と非AUR例の比較では,IPSS, QOL, age, PSA, TPV, TZIおよびRIにおいて有意差を認め,予測因子としてのage, PSA, IPSS, TZI, RIのROC曲線下面積はそれぞれ0.64, 0.67, 0.78, 0.82, 0.86であった.RIのカットオフ値を0.75とすると AURのsensitivity は80.4%,specificityは76.5%であった.
【結論】
血管抵抗は加齢や動脈硬化などの影響を受けることも考慮しなければならないが,前立腺肥大症において,TZIのみならず,RIも急性尿閉の危険因子であり,その発症予測に有用であることが示唆された.前立腺の被膜動脈は前立腺動脈から分岐し,前立腺腺腫内に流入する.前立腺が固い被膜に覆われたーつの閉鎖腔と仮定すると,肥大腺腫の増大に伴い,肥大腺腫はそれ自身により被膜内で著明に圧排され,前立腺内の圧力が上昇している可能性がある.そのため,血管抵抗は増大し,被膜動脈のRI値が上昇すると考えられる.また,圧力の上昇が下部尿路症状の出現や尿流量率の低下に結びついているとすれば,RI値を排尿障害の指標として用いることができると推察される.BOOの重症度評価に加えて,膀胱の収縮力や他の因子も評価するために尿流動態検査が必要となる患者が存在することも事実であり,今後,TZIやRIなどのTRUSで得られるパラメーターとpressure-flow study所見との相関を明確にする必要がある.