Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 産婦人科
パネルディスカッション4 <診療に活かす> 印象に残る症例:百聞は一見にしかず

(S320)

新生児死亡を来した後部尿道弁の1例

A case report of posterior urethral valves resulting in neonatal death

三科 美幸, 長谷川 潤一, 仲村 将光, 松岡 隆, 市塚 清健, 大槻 克文, 岡井 崇

Miyuki MISHINA, Junichi HASEGAWA, Masamitsu NAKAMURA, Ryu MATSUOKA, Kiyotake ICHIZUKA, Katsufumi OTSUKI, Takashi OKAI

昭和大学産婦人科

Obstetrics&Gynecology, Showa university

キーワード :

【はじめに】
後部尿道弁は男性の膀胱出口部閉塞を引き起こす先天性異常の中で最も頻度が高く,男児8000〜25000出生に1人認められる.発生学的には妊娠8〜11週のミュラー管の遺残か,総排出腔膜の遺残が原因と考えられている.近年の超音波診断学の進歩により,出生前の超音波検査で診断される尿路系の異常の10%にのぼり,増加傾向にある.超音波検査で,keyhole signという尿道閉塞部までの拡張した尿道の所見を認めた場合に診断できる.今回我々は,新生児死亡に至った後部尿道弁の1例を経験したので報告する.
【症例報告】
症例は32歳0回経妊,他院で妊婦健診を受けており,妊娠26週で軽度の両側水腎症を指摘され,経過を観察されていた.妊娠28週の超音波検査では,軽度の膀胱腫大および両側水腎症が認められたが,羊水量に異常はなかった.妊娠32週0日の妊婦健診時に羊水過少と著明な膀胱腫大が認められたため,精査目的で当院に紹介となった.入院時の超音波検査では,男児の外性器とkeyhole signを認めた.両側の腎盂の拡大を認め(前後径:20mm / 15mm),胎児水腎症Grade 3と判定した.羊水ポケットは7mmであった.その他の形態異常は認めなかった.ノンストレステストはreassuring patternであり,Biophysical scoring は8点であった.以上より,後部尿道弁,両側水腎症,羊水過少と診断し,ベタメサゾン12mgを2日間投与後に分娩の方針とした.妊娠32週3日で帝王切開を施行,出生体重1849g,Apgar score 6/7点(1/5分後),臍帯血ガスpH 7.218の児を出産させた.出生直後の児は経過良好であったが,日齢2で突然に腎出血を発症,急速に状態が悪化し日齢4で死亡した.
【考察】
後部尿道弁の重篤度は,完全に無症候性のものから,腎異形成により長期間の羊水過少や腎不全に至って,肺低形成を起こし呼吸不全状態で出生するものまで幅広い.患者の腎機能を長期的に観察した報告では,高度腎機能障害をきたす割合は25〜50%とされている.自験例のように,妊娠中に発見されるケースが多くなってきている現在においても問題点の多い疾患である.重度の症例では著明に拡張した膀胱と共に尿管や腎盂の拡張を認めることがある.腎盂の拡
張が軽度で羊水過少を認めない場合,児の状態は良好である可能性が高いが,逆に羊水過少を認める場合は重篤な状態にある可能性を念頭に置き,厳重な対応が必要であると思われた.