Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 消化器
ミート・ジ・エキスパーツ2 <治療に活かす> 消化管疾患診断における内視鏡と超音波の役割

(S303)

消化管疾患診断戦略における超音波の位置づけ

The positioning of the ultrasonography in the context of diagnostic strategy of gastrointestinal diseases

眞部 紀明1, 畠 二郎1, 河合 良介1, 今村 祐志1, 春間 賢2

Noriaki MANABE1, Jiro HATA1, Ryosuke KAWAI1, Hiroshi IMAMURA1, Ken HARUMA2

1川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 2川崎医科大学消化管内科学

1Division of Endoscopy and Ultrasonography, Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 2Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【緒言】
近年,非侵襲的に多くの情報が得られる体外式超音波検査(US)の消化管疾患における臨床応用に注目が集まりつつあり,多くの施設からその有用性が報告される様になってきている.他方,各種内視鏡機器の開発により全消化管の内視鏡観察が可能となっており,消化管疾患の診断における内視鏡検査の果たす役割も益々大きくなってきている.USと内視鏡にはそれぞれに異なった診断特性があるため,消化管疾患を効率よく診断していくには,両検査法をうまく使い分ける必要がある.本主題では,消化管疾患診断戦略におけるUSの位置づけに関して,下記の5疾患に対しこれまでの検討結果をもとに症例を提示しながら議論する.
【1. 急性腹症】
激しい腹痛を訴えている患者には,内視鏡を施行する事が躊躇される場合が多く,穿孔例に対するUSの意義は大きい.また腸閉塞や腸管の虚血が疑われる症例におけるUSの意義は,さらに高いものと考えられる.当院の急性腹症患者のうち確定診断の得られた症例に対するUSの検出能は概ね90%台前半であり,first lineの診断法として優れており,効率的診断戦略に寄与していた.
【2. 消化管出血症例】
小腸や大腸からの出血の場合,そのアプローチの煩雑さや前処置の必要性から,緊急内視鏡検査が躊躇される事も少なくない.出血部位および活動性出血の有無をUSで事前に確認しておくことは重要である.当院の大腸からの出血の検出率は80%台後半であり,疾患別では憩室出血,直腸潰瘍で検出率が低下していた.しかしながら,造影USを追加しextravasationを確認することでその感度は上昇した.小腸出血のうち腫瘍性病変のUS検出能は53.3%,びらん・潰瘍性病変は40%と他部位の消化管出血の検出率と比較して劣っており,特に長径20mm以下の病変や壁肥厚を伴わない病変は検出が低く,この事を念頭に入れておく必要がある.
【3. 炎症性腸疾患(IBD)】
IBD患者の経過観察では,腸管の炎症の程度だけでなく,腸管周囲の炎症の有無,膿瘍形成,瘻孔などの合併症の有無を確認する必要があり,断層診断法としてのUSの存在意義は高い.これまでの検討から,USによる腸管炎症の評価は,術材における腸管のそれと相関が見られており,IBDの経過観察にUSは有用であることが判明している.特に,重症例や膿瘍形成等の合併症を生じた症例では内視鏡を施行する事が躊躇される場合が多く,USの存在意義は高いと考えられる.
【4. 胃粘膜下腫瘍】
胃粘膜下腫瘍のうち有症状の腫瘍や5cm以上の大きな腫瘍は手術適応となるが,2cm未満の腫瘍で潰瘍形成や辺縁不整のない症例では経過観察される.その際,経過観察を非侵襲的に行える事が理想的でありUSの果たす役割は大きいと考えられる.我々の検討では,胃粘膜下腫瘍の85%はUSで検出が可能であり,検出可能であった全症例で平均39.2ヶ月の観察期間,USによる経過観察が可能であった.
【5. 機能性消化管疾患】
近年のわが国における消化管疾患の疾患構造の変化に伴い,以前と比較して消化管機能性疾患に遭遇する機会が増加している.非侵襲的で簡便に施行できるUSを用いた消化管機能検査法の果たす役割は,益々大きくなってくると考えられる.これまでに我々は頚部食道運動の機能評価,胃運動機能の評価を臨床応用しており,各種機能性疾患と健常者の間で,各種消化管の機能評価に差異が見られる事を報告している.
【結語】
非侵襲的で高分解能の断層診断法であるUSは,消化管疾患における効率的な診断になくてはならないmodalityと考えられるが,その臨床上の位置づけは疾患ごとに異なっており,注意を要する.