市川 新太郎, 市川 智章, 荒木 力

Shintaro ICHIKAWA, Tomoaki ICHIKAWA, Tsutomu ARAKI

山梨大学医学部放射線科

Department of Radiology, University of Yamanashi

キーワード :

膵癌は現在でも予後不良な疾患である．しかしながら，適切な治療を選択することで生存率の向上が期待できるようになってきた．画像診断の役割は，① 治癒切除によって長期生存が望める微小膵癌を検出することおよび，② 進行癌であっても適切な治療を選択するために正確な病期診断や進展範囲を評価することであると考える．進展度診断はMRIよりもCTの方が優れていると報告されているが1），MRIはコントラスト分解能に優れており，膵癌診断に不可欠な検査となっている．本口演では特にMRCP，拡散強調像，肝特異性造影剤であるEOBの有用性について概説する．
（1） MRCPMRCPは非侵襲的に胆管や膵管を画像化したものであり，胆道系や主膵管の全体像を把握するのに有用である．特に膵管内乳頭粘液性腫瘍（intraductal papillary mucinous neoplasm; IPMN）の診断には欠かせないものとなっている．また，微小膵癌の検出において主膵管拡張は重要な所見であり，この評価にも有効である．膵癌との鑑別が常に問題となる腫瘤形成性膵炎の診断においても有力情報が得られることがある（duct penetrating sign2））．（2） 拡散強調像現在では腹部領域でも歪みの少ない画像を得ることが可能になり，一般的にルーチン検査に取り入れられるようになっている．空間分解能は低いが病変の検出能に優れており，視覚的に認識しやすいのが特徴である．そのため，他のシークエンスで指摘困難な微小膵癌の検出に有効な症例をしばしば経験する．また，拡散係数（apparent diffusion coefficient; ADC）を計測することができ，形態画像のみならず機能画像としての情報も付加される3）．（3） 肝特異性造影剤（EOBプリモビスト）EOBが肝細胞癌診断において必要不可欠な造影剤であることは周知の事実であるが，膵癌診療においても威力を発揮する．膵癌の治療方針を決定する上で重要な因子として，局所進展の他に肝転移の有無がある．膵癌は大腸癌とは異なり，肝転移が1個でもあれば手術適応ではなくなる．膵癌の肝転移は，結節径が小さい，肝被膜下に多い，早期相でA-P shunt様の造影効果を呈する，といった特徴があり4），CTでは診断困難な例も多い．EOB造影MRIは微小な肝転移の検出にも有効であり，膵癌術前の有力な検査となりうる5）．
【参考文献】
1.Mehmet Erturk S, Ichikawa T, Sou H, et al. Pancreatic adenocarcinoma: MDCT versus MRI in the detection and assessment of locoregional extension. J Comput Assist Tomogr 2006;30:583-90.
2.Ichikawa T, Sou H, Araki T, et al: Duct-penetrating sign at MRCP: usefulness for differentiating inflammatory pancreatic mass from pancreatic carcinomas. Radiology 221: 107116, 2001.
3.Muhi A, Ichikawa T, Motosugi U, et al: Mass-forming autoimmune pancreatitis and pancreatic carcinoma: differential diagnosis on the basis of computed tomography and magnetic resonance cholangiopancreatography, and diffusion-weighted imaging findings. J Magn Reson Imaging 35: 827836, 2012.
4.Danet IM, Semelka RC, Nagase LL, et al. Liver metastases from pancreatic adenocarcinoma: MR imaging characteristics. Journal of magnetic resonance imaging : J Magn Reson Imaging 2003;18:181-8.
5.Motosugi U, Ichikawa T, Morisaka H, et al. Detection of pancreatic carcinoma and liver metastases with gadoxetic acid-enhanced MR imaging: comparison with contrast-enhanced multi-detector row CT. Radiology 2011;260:446-53.