Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 消化器
パネルディスカッション9 <治療に活かす> 急性腹症における超音波検査の今日的意義:今超音波は不要か?

(S280)

小児急性腹症における超音波診断の有用性

Usefulness of Ultrasound in pediatric acute abdomen

金川 公夫

Kimio KANEGAWA

あいち小児保健医療総合センター放射線科

radiology, Aichi Children’s Health and Medical Center

キーワード :

急性腹症は急激な腹痛で発症し,ときに緊急手術を必要とする急病の総称であるが,小児と成人では様相が異なる.未熟児から乳幼児では直接腹痛を訴えられず,年少児では腹痛を訴えても部位を特定できないなど主治医が急性腹症か否かを他の症状(例えば嘔吐,元気がないなど)から判断しなければならず,ときに急性腹症の診断が容易でない場合もある.また,急性腹症が疑われても腹痛の部位を特定できないこともあり,腹部全体の検索が必要になる.急性腹症の診断には主に造影CT,超音波検査が用いられるが,消化器疾患が疑われる場合は消化管造影検査が用いられる場合もある.造影CTでは腹部全体を隈なく検索できるが,年少児までの場合は鎮静が必要な場合があり,診断までに時間を要することもある.超音波検査ではすぐに診断できる疾患も多いが,消化管ガスが多いと診断が難しいことがある.また,診断力は術者の技量に依存するため客観性に乏しい.小児の急性腹症として重要な疾患である中腸軸捻転,腸重積,虫垂炎について他に行われる検査法と超音波検査との比較を行い,超音波検査の急性腹症における位置づけを検討する.なお,時間が許せば,他の疾患についても言及する予定である.中腸軸捻転は正常な腸の回転,固定が行われず,軸捻転を起こしたもので,緊急手術の適応になるが,多くは新生児期に発症する.診断には超音波検査と上部消化管造影が用いられる.超音波検査ではclockwise whirlpool signが有用とされている.上部消化管造影検査との比較では上部消化管造影および超音波検査の鋭敏度はそれぞれ85%,92%,特異度はそれぞれ98%,100%で,超音波検査が有用と思われる.また,消化管を閉塞させる他疾患のスクリーニングを行える点も超音波検査が有利である.腸重積では注腸および超音波検査が主に用いられるが,いきなり注腸を行う例は少なく,超音波検査が第一選択の検査となっている.超音波検査ではtarget sign,pseudokidney signが特徴的と考えられてきたが,内筒の腸間膜が外筒内に陥入する所見を示しているcrescent in doughnut signの有用性の方が高いとされている.超音波検査の鋭敏度は95〜100%,特異度は88〜100%で注腸検査と比較して遜色はなく,簡便に検査を行える点,被曝を伴わない点,他の疾患のスクリーニングを行える点も超音波検査の方が有利である.虫垂炎は年少児の場合,症状が非特異的で穿孔を生じやすくなど見逃さないようにする必要があるが,CTと超音波検査との比較では鋭敏度はそれぞれ94%以上,50〜83%,特異度はそれぞれ94%,93%で,CTの方が優れている.しかし,超音波検査の特異度はCTと同等であることから,まず超音波検査を行い,虫垂炎と診断できた場合,正常虫垂が描出できた場合,急性腹症の原因となる他の疾患を特定できた場合以外でCTを行うことを推奨する考えがあり,CTによる被曝を軽減でき妥当な推奨と考えられる.このように,小児急性腹症において超音波検査は簡便に施行でき,有用な検査であるが,現実には施設によっては造影CTが第一選択であったり,消化管造影検査が行われたりするように,施設間での温度差が大きいのは小児の腹部超音波検査に精通した医師,技師が少ないという構造的問題が立ちはだかるためと思われる.