Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 循環器
ミート・ジ・エキスパーツ1 <診療に活かす> 2Dスペックルトラッキング法は臨床に必要な手法か?

(S256)

心室内同期不全の評価に2Dスペックルトラッキング法は必要か?

2D speckle tracking echocardiography for cardiac dyssynchrony; Unnecessary or necessary?

瀬尾 由広

Yoshihiro SEO

筑波大学循環器内科

Cardiovascular Division, University of Tsukuba

キーワード :

【左脚ブロックと機械的左室内非同期】
左室内同期不全の存在は心臓再同期療法(CRT)の適応決定において重要である.しかし,様々なガイドラインではQRS波形によってのみ左室内同期不全を診断し,心エコー図による決定は推奨されていない.しかし,最新の欧米のガイドラインでは非左脚ブロック症例におけるCRT推奨レベルが引き下げられている.一方,左脚ブロック症例はCRTの最も良い症例であり,CRT推奨レベルはclass1またはIIaである.MADIT-CRTなど大規模試験にて左脚ブロック症例においてのみCRTの効果が明らかにされたことが反映されている.従って,心エコー図による左室内非同期の確認は必要ないかもしれない.我々は左脚ブロックを伴いLVEF40%未満の収縮不全51症例において心エコー図で検出される左室内非同期が存在する割合を検討した.正常例の2SD以上の非同期が確認された場合に左室非同期ありとすると,Mモード法では57%に対して,スペックルトラッキング法では94%に左室内非同期が確認された.従ってスペックルトラッキング法は左室内非同期有無を評価するのに従来のMモード法よりも有用である.やはり完全左脚ブロック症例では機械的な左室内非同期が殆どの症例で存在する.
【左脚ブロックにおけるCRTの効果】
我々が行ってきた多施設共同研究であるJapan Cardiac Resynchronization Therapy Registry Trial (J-CRT)およびSpeckle Tracking imagingfor the Assessment of cardiac Resynchronization Therapy (START) studyに登録された左脚ブロック症例217例による解析では,CRTレスポンダーを従来から使用されているCRT後の左室収縮末期容量が15%以上と定義すると150例(69%)がレスポンダーであった.言い換えれば完全左脚ブロック症例でもノンレスポンダー率は30%を超える.これは無視できない割合ではないだろうか?
【左脚ブロックにおけるCRT効果予測】
左脚ブロック症例における効果予測に心エコー図指標は有用か否かを,Mモード法,組織ドプラ法,およびスペックルトラッキング法で比較した.対象は31例の左脚ブロックのCRT施行症例で21例(67%)がレスポンダーと判定された.Mモード法によるSPWMD, 組織ドプラ法のYu index, Bax indexはレスポンダーとノンレスポンダーに有意差はなかった.一方,スペックルトラッキング法で求めた中隔と自由壁間の収縮時間差は有意にレスポンダー群で大きく,ROC解析で求めたAUCは0.88(p<0.001)と極めて良好であった.多施設共同研究であるSTART studyにおいてもSPWMD, Yu index, Bax indexでは有意差は認めず,スペックルトラッキング法で求めた非同期指標が有意に大であり,AUCは0.7(p=0.006)と有意な層別化が認められた.更に非同期指標には再現性に問題がある.このためSTART studyでは完全に独立したコアラボでの再現性を検討したところ,スペックルトラッキング法で求めた非同期指標の再現性は極めて良好であった.
【左脚ブロックにおける非同期の存在とCRT効果の乖離】
以上のように同じ左脚ブロックを呈し非同期が存在してもCRTが全例で効果が認められない.これには左脚ブロックの多様性が関係している.例えばMモード法で中隔壁運動を観察してもその多様性が明らかである.左脚ブロックではseptal flashと呼ばれる中隔壁運動の存在がCRT効果と強い関連がある.しかし,septal flashはCRTレスポンダーの半数程度にしか観察されない.一方,スペックルトラッキング法ではこのseptal flashを高率に確認することが出来,septal flashを用いた非同期の定量化が可能である.このように心室内同期不全の評価には2Dスペックルトラッキング法は必要である.