Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム19 <科学に活かす> 超音波DDSの課題と将来展望

(S212)

パルス超音波を用いたソノポレーションにおける気泡から細胞への物質移動

Transduction of microbubble shell material to cells during sonoporation using pulsed ultrasound

工藤 信樹, 吉松 幸里

Nobuki KUDO, Yuri YOSHIMATSU

北海道大学大学院情報科学研究科

Gradualte School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【はじめに】
超音波DDSの最も大きな課題の一つは,導入効率の向上である.一般にソノポレーションでは,微小気泡と薬物を加えた細胞懸濁液に超音波を照射したり,気泡と薬物を加えた生食などを血管から静注して超音波を照射したりすることが行われている.超音波としては,連続波もしくは数千波以上の波数をもつ長いバースト波の繰り返し照射が用いられ,累積の照射時間は数秒から数十秒のオーダに及ぶ.このような超音波照射の下では,加えられた微小気泡は照射開始後数マイクロ秒で崩壊するが,その気泡片を核として成長したキャビテーション気泡が持続的に存在し続けて細胞膜に損傷を与える.従って,細胞膜損傷の発生確率は超音波の照射時間に比例して増加する.ソノポレーションによる導入効率の向上を目指し,気泡のシェルに薬剤を付加する試みが行われている.上述の超音波照射条件では,気泡はすぐに壊れ,気泡のシェルに付加された薬剤と内包されていた気泡が分離する.しかし,薬剤は近傍には存在するために細胞への取り込みが起き,導入効果が向上する.
我々は,気泡が細胞に接触した状態では,持続時間が数マイクロ秒の短いパルス超音波を1回照射しただけでも3割程度の細胞に膜損傷を生じさせ得ることを報告してきた.連続波の場合と異なり,この条件では,接触していた気泡の崩壊によって直接細胞膜の損傷が起きる.それゆえ,適切な方法で気泡に薬剤を付加することができれば,薬剤が直接細胞内に導入され,効果の発現率が大幅に向上する可能性がある.本稿では,薬剤を模擬する蛍光染料をシェルに加えた2種類の微小気泡を用いてパルス超音波によるソノポレーションを行い,シェル物質の細胞への移動に関して基礎的検討を行った結果について述べる.
【方法】
微小気泡1:生理食塩水にウシアルブミン,グルコース,蛍光染料を加え,バイアルビンに入れて強く震盪することにより,アルブミンと蛍光物質の混合物をシェルとする微小気泡を作成した.微小気泡2:脂質分子の一部を蛍光染料NBDで置き換えたリポソームを作成し,C3F8ガスを封入したバイアルビンに入れた後,超音波洗浄器で連続超音波を照射することにより蛍光染料でラベルされた脂質2重膜をシェルとするバブルリポソームを作成した.
細胞にはヒト前立腺がん細胞を用い,気泡と細胞が接触した条件で中心周波数1 MHz,最大負圧1.3 MPa,波数3波のパルス超音波を1回のみ照射した.超音波照射前後の気泡と細胞の変化を,微分干渉顕微鏡もしくは共焦点顕微鏡で観察した.
【結果と考察】
微小気泡1:超音波照射により細胞膜に損傷は発生したものの,シェル物質の細胞への移動は認められなかった.アルブミンのシェルは柔軟性に乏しく,気泡膨張時にシェルが破れ,続く収縮時には内包されていた気体だけが収縮し,内包気体とシェルが分離する.それゆえ,気泡が細胞膜損傷を発生させる際に,シェルの細胞内への取り込みが起きにくかったものと考えられた.
微小気泡2:ソノポレーションの結果,細胞の表面にシェルと思われる物質が付着した細胞が多く観察され,頻度は低いものの,細胞深部まで蛍光物質が導入された細胞も観察された.これは,脂質2重膜が容易に分断・融合する特徴から,気泡が膨張・収縮しても気泡と膜の分離が起きにくかったことが一つの原因と考えられた.
【結論】
シェルの素材によって,気泡から細胞への物質移動が大きく異なることが実験的に確認できた.今後パルス超音波によるソノポレーションにおいて効率良く物質を移動できるシェル素材や薬剤の付加方法について,さらに検討を行っていく予定である.