Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム19 <科学に活かす> 超音波DDSの課題と将来展望

(S210)

工学から見たDDS超音波治療

DDS medical ultrasound treatment from engineering

山越 芳樹

Yoshiki YAMAKOSHI

群馬大学大学院・工学研究科

Graduate School of Engineering, Gunma University

キーワード :

【はじめに】
微小気泡を搬送媒体として超音波を微小気泡のアクティベーションのために用いる超音波支援のDDS(Drug delivery system)は,分子標的技術等との組み合わせにより新たな展開を見せようとしているが,工学分野の基礎技術開発についても多くの研究テーマが残されている.たとえば,気泡のキャビテーションによりマイクロジェットを生じさせて細胞壁(ターゲット)に可逆的な微小孔を穿つ音響穿孔技術(ソノポレーション)では,気泡とターゲット間の距離によりターゲットに与える効果が異なることが実験的に示されている.また,音響穿孔に寄与する気泡の割合は実際には非常に低いことも知られており,音響穿孔に寄与する気泡の割合をいかに増やしていくのかも重要になる.ただし血管のような閉領域内において,外部から与える超音波を制御することで気泡・ターゲット間の距離を最適化したり,気泡のアクティベーションを制御したりすることは,非常に難しい技術課題である.しかし,もし微小孔形成に寄与する微小気泡の割合が1%であったときに,超音波照射シーケンスを工夫することで,その割合を例えば1.5%にまで向上させるような手法であれば実現性は高い.ここに工学側からの研究アプローチが残されていると言える.このような手法の開発では,たとえば超音波造影剤の生体への導入直後がそうであるように,多数の微小気泡が音響放射圧で力を及ぼしあい相互作用しているような「気泡クラウド」を扱うことがポイントになり,気泡クラウドのダイナミクスを明らかにしていくこと,外部から加えた超音波で制御可能なパラメータを明らかにしていくこと,さらに気泡クラウドからのキャビテーション現象とその制御可能性について議論していくことが必要になる.従来,単独気泡のキャビテーションについては理論的,実験的に多くの研究がなされてきているが,気泡クラウドのキャビテーションについては応用に繋がるような知識が十分に得られているとは言い難い.本稿では,気泡クラウドからのキャビテーションについて我々が行ってきた基礎的な実験結果を示す.
【実験】
微小気泡に比較的弱い音圧を持つ超音波(トラッピング超音波)を照射すると,微小気泡間には音響放射圧(Bjerknes力)が働き,この結果,近隣の気泡が集合して気泡クラウドが形成される.またこの気泡クラウドは音響放射圧により流路壁面に付着する.これにより流路壁面付近における気泡密度は著しく向上するが,この気泡クラウドに強力な超音波を照射すると,キャビテーションが生じ流路壁面には多数の微小くぼみが形成される.この時の気泡クラウドの挙動を高速度カメラで観察すると,移動,壁面からの遊離,集合化,縮小化,細分化など多彩な現象が観測される.これらの現象と微小くぼみの形成には関連性があり,これらの現象により壁面にできる微小くぼみの量や質(大きさ,深さ等)が変わるが,この実験結果について示す.
【まとめ】
ここで扱うのは,超音波場中で微小気泡に働く音響放射圧を用いてキャビテーションの効率化や質の制御を図ろうとする方法である.このような物理的方法は,生化学的な方法が使いづらい状況でも利用できるという利点があるし,これら他の方法と融合することで最終的な効率向上に繋がることも期待できる.このためには医学,薬学,工学の連携が必須であり,このような学際的な研究により超音波支援のDDSが今後更に発展していくことを望んでいる.