Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム9 <科学に活かす> 最新の超音波診断装置技術の動向

(S202)

超音波診断装置における新しい工学技術の展望

Overview on New Technologies in Diagonstic Ultrasound

梅村 晋一郎

Shin-ichiro UMEMURA

東北大学医工学研究科

Biomedical Engineering, Tohoku University

キーワード :

超音波診断に用いられる工学技術は,1)電気信号を超音波信号に変換し,超音波信号を電気信号に変換する電気・音響変換技術,2)撮像における空間およびコントラスト分解能を大きく左右する送信および受信音場形成技術,3)これら技術に基づき,診断情報をもたらす技術の3階層に分けることができる.これら各技術階層から1つずつ,他の講演に主たるテーマとして扱われていない新潮流について紹介する.
I)高結合係数圧電材
10年ほど前に開発され,数年前から一部の市販超音波プローブにも用いられるようになったリラクサ系圧電単結晶は,90%に達する高い電気・機械結合係数をもつ.これは,現在でも主流であるPZT系圧電セラミックの電気・機械結合係数が80%未満であるのに比べ,著しく優れている.結合係数80%に対する90%の優位性は,超音波プローブの感度に反映させると高々10%程度の差であり,大した差ではないと考えがちである.しかし,超音波側の振動エネルギーのうち電気側から制御できない残留成分 1-(結合係数) 2 が,セラミックの40%程度に対し20%以下と半分以下に減じることができたと見ることができ,これが,超音波プローブの極めて優れた過渡応答特性を生むと考えられる.その結果,超音波プローブの送受信帯域を拡げることができ,優れた撮像性能を実現できる.
2)非フォーカス送信/多点同時受信フォーカスによる高速撮像
近年の電子回路技術の微細高速化により,超音波診断装置に搭載可能な信号処理能力の観点では,従来の超音波診断装置のようなビームごとのフォーカスに束縛される必然性がなくなってきた.そこで,送信超音波をフォーカスせず,円筒波や球面波などの拡散波や平面波などを送信し,それらの広い送信音場の中に受信焦点を多数置いて受信フォーカス処理を並行して行う方式が考えられる.1つの断層像を得るための送信回数が桁違いに減るので,高速撮像が可能になる.最近,市販の診断装置の中に,この方式を実装するものが現れてきた.
この方式には,少なくとも2つの技術課題がある.1つめは,送信ビームによりコントラスト比をかせいでいる従来方式と比較し,この比を受信フォーカス処理によってしか得ることができないので,この比が劣化しがちな点である.これを防ぐ工夫として,被撮像点1点に対し複数方向からの送信を複数回行って,その撮像結果をコヒーレントまたはインコヒーレントに加算するコンパウンド法が採用されている.複送信回数が数倍増えるので,トレードオフとして,大幅にかせいだ撮像速度が数分の1に低下する.
もう1つの問題は,深部における送信信号強度をかせぐためには,1点送信による理想的な拡散波を採用することは困難なため,拡散波や平面波といっても有限な幅をもつ疑似的な波を採用せざるを得ないことにより生ずる.このため,有限な幅をもつ波の端の部分において,伝播にともない回折によるリップルを生じがちになる.この問題は,端の部分における送信振幅の重みづけにより,ある程度防ぐことができる.
撮像速度は,X線CTやMRIと比較するとき,超音波診断の本質的強みであるので,これをさらに伸ばす高速撮像技術は,診断用超音波技術の将来を担う重要性を担うものである.
3)高速撮像によりもたらされる診断情報
人体の動きは一定であるので,高速撮像によりもたらされる時間的余裕は,これまで処理時間のために妥協してきた診断情報の質の向上を可能とする.そのような診断像には,心臓の実時間3次元像,3次元または広範囲の実時間血流像,放射庄発生のための強力送波回数を抑えた弾性像などが挙げられる.