Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 基礎
シンポジウム8 <科学に活かす> 組織の弾性と粘性:基礎と臨床応用

(S199)

肝エラストグラフィにおける弾性と粘性−臨床的観点から−

Elasticity and viscosity in liver elastography From clinical aspects

森安 史典

Fuminori MORIYASU

東京医科大学消化器内科

Department of Gastroenterology & Hepatology, Tokyo Medical University

キーワード :

【はじめに】
肝臓のエラストグラフィに使われる手法には,圧迫や心拍動によって生じる肝臓の歪みの程度を映像化するstrain elastographyと,肝臓内に剪断波(shear wave, SW)を生じせしめ,その伝搬速度を測定し映像化する,shear wave elastographyがある.後者を使う場合,剪断波の伝搬速度を規定するのは,組織の弾性のみならず粘性も影響することが分かってきた.臨床的にshear wave elastographyを使う中で,測定結果が組織の弾性の変化では説明できず,粘性の変化で説明できる病態に遭遇することがある.
【びまん性肝疾患】
びまん性肝疾患のエラストグラフィは,慢性肝炎から肝硬変へと進展する際の,膠原線維の増加に伴う弾性の上昇がその観察対象とされてきた.すなわちエラストグラフィによる,肝線維化の推定診断が主たる目的であった.しかし,急性肝炎や脂肪肝で,弾性の増加では説明できない,剪断波の伝搬速度の増加した病態が報告されるようになった.急性肝炎の病理学的変化は,広範な肝細胞壊死とリンパ球,白血球の浸潤であり,物性では弾性より粘性が増加すると考えられ,剪断波の伝搬速度の増加はそのためであると考えられる.
【腫瘍性肝疾患】
肝細胞癌の手術例において,エラストグラフィと病理標本を対比し多変量解析を行なうと,SWの伝搬速度との相関がよいのは,2つの組成である.ひとつは膠原線維の量であり,他のひとつは細胞密度である.膠原線維は組織の弾性との相関を,細胞密度は組織の粘性との相関を説明しており,ともに剪断波の伝搬速度に影響していると考えられる.また,良性の肝腫瘍である海綿状血管腫のエラストグラフィでは,剪断波の伝搬速度が速いものがある.図に示すように,典型的な海綿状血管腫において,明らかに剪断波の伝搬速度が速いことが示される.海綿状血管腫において組織弾性が増加しているとは考えられず,極めて小さい海綿状構造の中を,剪断波により血液が移動することによる粘性の増加として説明される.
【まとめ】
肝のエラストグラフィでは,臨床例の観察から,剪断波の伝搬速度組織は弾性と粘性の両者によって影響を受けることが示唆される.今後は,弾性と粘性を分けて測定できる技術が必要となる.