Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
パネルディスカッション24 <診療に活かす> Real-time Tissue Elastography 〜10年の歩み〜 (協賛:日立アロカメディカル株式会社)

(S188)

超音波エラストグラフィ開発の過去・現在・未来

Past, present and future of development of ultrasound elastography

椎名 毅

Tsuyoshi SHIINA

京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻

Human health sciences, Graduate school of medicine, Kyoto University

キーワード :

疾病による組織の質的な変化を把握し,早期診断や鑑別診断等に役立てようという,組織性状診断(tissue characterization)の研究は,電子スキャンが実用化した1970年頃から始まっており,音速,減衰,散乱など様々な特徴量の計測法が検討されてきた.しかし,基礎研究と異なり,反射波しか扱えない臨床の環境では,空間分解能と精度の双方を向上させることは原理的に難しかった.そんな中,1990年頃にテキサス大のOphir教授が,組織の硬さを可視化する手法とした提唱したElastographyは,2つの点で画期的であった.1つはエコー信号だけを用いる従来の超音波計測と異なり,外部から組織を変形させ,超音波はその変形を測るために用いる点である.もう一つはそれまでの組織性状の画像と比べコントラストと空間分解能が格段に良いことである.また,ほぼ同時期に,ロチェスター大のParker教授は,加振で生ずる剪断波を利用する方法を示した.これらが,現在のエラストグラフィの2大手法であるstrainまたはshear wave speedに基づく手法の流れを作ることになる.その意味では,エラストグラフィの開発の歴史は約20年であるが,実用化されるまでは,最初の提案から10年余りの年月が費やされた.何れの方法も,実験室でのファンム計測では適切な画像が得られても,臨床適用可能とする条件として,診断に必要な画像の解像度や精度と,超音波検査の利点である実時間性と簡便性を満してなかった.私は,筑波大学に在任中に,1995年から1年間,英国のがん研究所においてエラストグラフィの研究に着手した.そして,幸運にも1996年には,実用化の鍵となる,複合自己相関法(Combined autocorrelation method)を開発することができた.これは,それまでのstrain imaging法での課題を克服し,高精度,実時間,手での圧迫によるひずみの変動に対応できる広いダイナミックレンジを持つ特徴がある.そして,帰国後,筑波大学の植野氏と実用化の研究に着手し,製品化に向けて複数の企業と連携を模索した.そして日立メディコとの共同研究を開始し,エラストグラフィの研究を初めてから7年,共同研究を始めて,わずか3年の2003年にReal-time Tissue Elastographyの製品化が実現した.新しい画像診断技術である点で,その普及が課題であったが,弾性スコアを提案も功を奏し,乳癌の診断における有用性が認められるようになり,2008-2010年にかけて,各社ともエラストグラフィを搭載した装置を発表した.また,最近では,shear wave による手法も実用化した.一方,最初の装置が世に出て10年が経過し,原理や使用法も様々なタイプの装置が使われており,用語や診断基準の統一の必要性が叫ばれている.そして,JABTSや日超医において,そしてWFUMBにおいても,来年5月の大会でのガイドライン策定に向けて準備が進められている.現時点では,何れの手法も,一定の計測条件と組織モデルに基づいて設計しているので,実際の設定条件やモデルが実際と相違する場合,誤差やアーチファクトの要因になる.また,静的変形で得られる弾性と,剪弾波の伝搬速度から得られる弾性は,簡単化したモデルでは同等としているが,実際には異なる可能性があり,少なくとも粘性が大きい場合は相違が出てくる.また,弾性とともに,粘性も重要な診断情報になりうる.Strainとshear wave法の融合など,今後,超音波エラストグラフィのさらなる発展を期待したい.