Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

特別プログラム 領域横断
シンポジウム21 <科学に活かす> Shear wave imaging の現状と将来

(S175)

Shear wave imagingの基礎

Basis of Shear wave imaging

山越 芳樹

Yoshiki YAMAKOSHI

群馬大学大学院・工学研究科

Graduate School of Engineering, Gunma University

キーワード :

【はじめに】
Shear wave imaging(ずり弾性波映像法)は,組織の粘弾性を映像化する新たな映像法として注目を集め,現在,手法の開発の段階から臨床応用の開拓の段階に進みつつある.しかし複数の映像化技術がある,測定装置により測定パラメータが異なる,など混乱を招きかねない状態にある.さらに,測定部位によっては得られる値に予想以上のばらつきが見られるなど,ばらつきの原因や測定の定量性の向上など解決していかなければならない課題も多い.この映像法に課題が多い理由の1つとして,「ずり弾性波」が「体積弾性波(超音波)」と並ぶ代表的な弾性波動であるにも関わらず超音波エコー法の映像オプションの1つとして扱われ,ずり弾性波の性質や特徴,計測上の問題等が十分に理解されていないことが挙げられる.ここでは,ずり弾性波を「医用診断のための新たな波動」として再考してみることで,Shear wave imagingの特徴や問題等についてまとめてみたい.
【ずり弾性波の特徴と計測上の課題】
ずり弾性波の伝搬速度は,組織を手で触った時に感じる硬さであるずり弾性率に密接に関係していることは良く知られている.組織が硬いほど伝搬速度は速くなるが,たとえば,食品のプリン程度の硬さであれば伝搬速度は2m/秒から3m/秒程度であり,プラスチック消しゴム程度の硬さになると数m/秒から10m/秒程度になる.さらにずり弾性波は伝搬媒質のずり粘性の影響も受け,ずり粘性が大きくなるとずり弾性波の減衰が大きくなるとともに伝搬速度には周波数依存性が現れる.また加えた応力により弾性が変化する非線形性(一般に応力を高めると硬くなる)や筋組織などでは伝搬方向により伝搬特性が異なるなど超音波では現れにくい特徴を持つ.これらの特徴はどれも新たな医用診断情報として将来役立つ可能性があるが,伝搬媒質の影響を大きく受けるという特徴は,逆に考えると反射や屈折の影響が現れやすいことになり,この結果,ずり弾性波は組織中を3次元的に伝搬することになる.一般に,ずり弾性波の伝搬速度は伝搬方向に沿う位相回転量(伝搬時間遅れ)から推定するので,もし測定方向と伝搬方向が異なっていたり,あるいは伝搬途中で屈折の影響を受けたりすると,速度推定値には誤差を生じることになる.これ以外にも,ずり弾性波の振幅は一般に数ミクロン程度と非常に小さいので,超音波による変位計測の誤差や臓器自体の動きの影響も誤差を生む要因になる.さらにずり粘性が大きい場合には,伝搬速度の周波数依存性も考慮する必要がある.
【ずり弾性波の利用】
体積弾性に依存する「超音波」では組織の違いによる伝搬速度差は最大でも数%とわずかであった.ところが,ずり弾性波では伝搬速度差は数倍程度にもなるため超音波と同じイメージでずり弾性波の伝搬を考えると思わぬ結果を生むことになる.「ずり弾性波」の診断応用では,測定法(ハードウエア技術,信号処理・画像再構成技術),ずり弾性波の励起法など,計測・映像化法の特徴や問題をよく理解した上で応用を探っていくことが必要になる.本稿では,これらShear wave imagingの基礎とともに,我々の研究室で行ってきた研究について紹介したい.