Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2013 - Vol.40

Vol.40 No.Supplement

会長講演
会長講演 

(S143)

超音波を活かす:過去,現在,未来

Fully Use of Ultrasound in My Life as a Cardiologist

増山 理

Tohru MASUYAMA

兵庫医科大学内科学循環器内科

Chairman & Professor Cardiovascular Division, Hyogo College of Medicine

キーワード :

 私は大学を卒業して33年が過ぎた.卒業と同時に循環器内科に進んだのであるが,その時に初めて超音波と出会った.当時,普通の病院における心疾患の診断は,まず聴診を中心とした身体所見,心電図,そして心臓カテーテル検査という流れであった.私が在籍した大阪大学は心臓超音波のメッカということもあり,すでに断層心エコー図法,超音波ドプラ法を使った診断が日常臨床にも応用されていて,驚くべき知見が続々と得られていた.今後,あらゆる心疾患の診断が超音波で非侵襲的に行えるようになるのではないか,と夢見て私は超音波医学に飛び込んだのである.その後の超音波装置の進化はめざましい.当時の私の想像をはるかに超えたものであった.30年後にここまで進むとは当時夢想だにしなかった.実際,30年前には超音波をどのように診断にうまく使って日常診療に応用できるか,という手法の開発が研究の主眼であった.すなわち,超音波の臨床研究の多くは「診断に活かす」ためのいろいろな手法の開発であった.循環器領域でいえば,心臓カテーテル検査でしか分からない指標をいかに上手に正確に推定するか,という研究をたくさん行った.その中で,流速から心腔内の圧較差を推定できるという考えにより,その後の心臓超音波検査は大きく変わった.形態だけではなく機能が分かるようになったのである.
 1990年代半ばになると,心疾患の多くが超音波のみで診断できるようになった.どんな病院でも心臓超音波診断装置が導入され,診断に用いられる.1980年代に開発されたいろいろな手法が実臨床で広く用いられるようになったのである.もう超音波の研究は終わったのではないかと思った人も決して少なくなかった.確かに,多くの心疾患の診断は行える.でも,治療法の選択に際してはほとんど無力だということに気が付いた.超音波そのものを治療に活かすという技量は私たちには無かったが,「治療に活かす」超音波をめざす研究へのシフトを試みた.決して簡単ではなかったが,いくつかの成果はあげた.その一方,私たちは超音波を「研究に活かす」ことを考え始めた.超音波がそれだけの精度を獲得したということである.小動物の心機能を超音波で評価する手法を確立し,小動物を用いた疾患モデルの開発,さらには疾患モデルを用いた治療法の開発に応用していった.確立された心エコー諸指標をエンドポイントに用いた大規模臨床試験が走り始めたのもこの頃であり,超音波の創世記は終わり,次の時代へ移ったことを実感させられた.本講演では,「超音波を活かす」ことを考えながら私が諸先輩,同僚,そして後輩とともに歩んできた道を振り返りながら,超音波の今後の発展・期待についての私見を述べたい.