Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
コメディカル部門:血管および表在領域

(S585)

ゼリー状の食物摂取後の女性の腹腔動脈・上腸間膜動脈血流変化の月経周期による差異

Blood flow changes of celiac and superior mesenteric arteries after eating jelly foods in follicular and luteal phases of young women

山本 彩1, 細野 剛良2

Aya YAMAMOTO1, Takayoshi HOSONO2

1大阪警察病院臨床工学科, 2大阪電気通信大学医療福祉工学科

1Department of Clinical Engineering, Osaka Police Hospital, 2Department of Biomedical Engineering, Osaka Electro-Communication University

キーワード :

【目的】
女性の中には黄体期に多彩な症状を伴う月経前症候群を訴える者がある.月経前症候群の代表的な症状として,精神症状では憂鬱,怒りやすい,いらいら感,無気力,不眠など,身体症状では頭痛,浮腫,下腹部膨満感,体重増加,乳房痛などが挙げられる.身体症状のなかには食欲の変化や食物嗜好の変化も含まれる.月経前症候群は患者の主観的な症状から診断されるため,その定量的な評価が困難であり,臨床現場では,しばしば,その診断や加療に難渋する.女性の食物摂取後の消化器系の血流が月経周期によって変化する可能性について,卵胞期と黄体期のそれぞれの食物摂取後の上部消化器系の動脈血流の時間変化の観点から検討した.
【対象と方法】
被験者は平均21.7歳の女性7名である.被験者には通常の食事後3時間以上,水分以外の摂取を禁止した.長袖Tシャツを着用させ,計測室(室温27℃)の入室後,5分以上仰臥位にて安静を取らせた.ついで,35℃に加温したエコーゼリーを用いて超音波診断装置(Toshiba SSA350)によって腹腔動脈,上腸間膜動脈を描出し,パルスドプラ-法にて,それぞれ収縮期血流速度,拡張期血流速度を測定した(摂取前).ついで食物としてゼリー状の食物であるウィダーinゼリー(180ml/180kcal,森永製菓)をすばやく摂取させた(時刻0).その後,仰臥位にて,摂取5分後,15分後,30分後の腹腔動脈と上腸間膜動脈の収縮期血流速度・拡張期血流速度を測定した.計測の合い間はTシャツを下げさせて腹部を保温した.計測は1名の被験者について,卵胞期と黄体期に各1回ずつ実施した.解析は『Resistance Index(RI)=(収縮期血流速度-拡張期血流速度)/収縮期血流速度』の値と,それぞれの時点のRI値と摂食前のRIの差⊿RIを検討対象とした.なお,本検討は当該の生体倫理委員会の審査・承認と被験者の書面による説明と同意の上で実施した.
【結果と考察】
腹腔動脈,上腸間膜動脈のいずれRI値においても,卵胞期と黄体期の成績の間には,摂取5分後,15分後,30分後の結果に有意差(p<0.05)は認められなかった.⊿RIは卵胞期では腹腔動脈・上腸間膜動脈いずれも増加傾向にあった.摂取30分後の⊿RI[30]とすると,腹腔動脈で⊿RI[30]=0.02±0.04(mean±SE),上腸間膜動脈で⊿RI[30]=0.03±0.06であったが有意な変化ではなかった.黄体期の腹腔動脈では摂取後の⊿RIの変化はなく⊿RI[30]=0.01±0.02であった.しかし黄体期の上腸間膜動脈において7名の被験者すべてで,摂取前と比較して,摂取5分後,15分後,30分後のRI値が減少した.黄体期の上腸間膜動脈の⊿RIは全てのタイミングで有意に減少し⊿RI[30]=-0.08±0.01であった.黄体期はプロゲステロン分泌が増加し,受精卵の着床に備える時期であり,月経前症候群症状のあらわれる時期である.黄体期に上腸間膜動脈の血管抵抗減少し血流増加が増加することは,上腸間膜動脈のRIは食欲の変化や食物の嗜好の変化を定量的に反映する指標である可能性がある.
【結論】
卵胞期のゼリー状の食物摂取後の腹腔動脈と上腸間膜動脈のそれぞれのRIは卵胞期には差異は認めなかった.しかし黄体期のゼリー状の食物摂取後の腹腔動脈のRIには変化がないにもかかわらず,ゼリー状の食物摂取後の上腸間膜動脈のRIは減少した.上腸間膜動脈のRIは月経前症候群の程度を定量的に反映する指標として使用できるものであるのかもしれない.