Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
産婦人科:母体

(S564)

音響放射圧(ARFI)を用いた胎盤弾性評価による新たな胎盤機能評価法に関する研究

Evaluation of new placental fanction using Acoustic Radiation Force Impulse which can determine tissue elasticity

杉谷 麻伊子

Maiko SUGITANI

九州大学産婦人科

Obstetrics, Kyushu University

キーワード :

【背景】
近年,音響放射圧(Acoustic Radiation Force Impulse;ARFI)を用いて組織弾性を数値化することで“組織の硬さ”を客観的に評価できるようになり,甲状腺,乳腺,肝臓といった臓器での組織弾性評価法が臨床応用され始めている.ARFIを搭載した超音波装置では,収束超音波パルスが組織の標的領域に向けて照射され,それに伴いその組織領域は後方に偏位し,剪断歪みが生じる.こうして生じた歪みが復元する際に発生する弾性波のうち,組織を横方向に伝わる波は剪断弾性波と呼ばれ組織が硬いほど伝搬速度(Vs値;m/s)が速く,柔らかいほど遅くなる.この剪断弾性波は硬さの指標であるヤング率と比例することから,剪断弾性波がその組織弾性の指標となる.
【目的】
ARFIを用いて胎盤弾性を数値化し,胎盤機能評価の指標となり得るか否かを明らかにすることを目的とした.
【方法】
当院の倫理規定に沿い,研究への参加に同意の得られた90例(正常経過群(妊娠37週以降):40例,早産群(妊娠24〜36週):15例,妊娠高血圧症候群(PIH)群(妊娠30〜38週):15例,胎児発育不全(FGR)群(妊娠24〜36週):20例)を対象とした.娩出された胎盤をビニル袋に入れ,水を張った水槽内に置き,ARFIを搭載した超音波装置(シーメンス社ACUSON S2000)で剪断弾性波の伝搬速度を測定した.ROIの深さを1-3cm以内とし,正常経過群において,測定部位を臍帯付着部,辺縁,中間実質の3箇所とし,測定部位による胎盤弾性の違いを検討した.次に,測定部位を臍帯付着部として,正常経過群,早産群,PIH群,FGR群においてVs値を計測し,各群間で測定値を比較検討した.各々の測定値は5-10回測定した平均値とし,統計学的には,Mann-Whitney U検定を用いた.
【成績】
それぞれの測定部位におけるVs値は臍帯付着部が1.64±0.43m/s,辺縁が1.48±0.42m/s,中間実質が1.39±0.23m/sで臍帯付着部は他の部位に比し有意に高かった.正常経過群と早産群における臍帯付着部のVs値はそれぞれ1.64±0.43m/s,1.63±0.82m/sで有意差は認めなかった.PIH群の臍帯付着部のVs値は1.76±0.37m/sで正常経過群との間に有意差はなかったが,FGR群は2.55±0.71m/sで正常経過群と比し有意にVs値が高かった.
【考察】
正常経過群と早産群のVs値に有意差がないことから胎盤弾性の妊娠週数に伴う変化は少ないと考えた.またFGR群では正常経過群と比較し,胎盤弾性は有意に高く,胎盤機能不全の所見の一つと考えられた.
【結論】
ARFIを用いた胎盤弾性測定は,新たな胎盤機能評価の指標となり得ることが示唆された.