Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
産婦人科:胎児

(S558)

正常な甲状腺機能であった胎児甲状腺腫の一例

A case of fetal goiter with euthyroidism

香山 哲徳, 梁 栄治, 鎌田 英男, 市田 宏司, 松本 泰弘, 司馬 正浩, 笹森 幸文, 木戸 浩一郎, 竹下 茂樹, 綾部 琢哉

Akinori KAYAMA, Eiji RYO, Hideo KAMATA, Hiroshi ICHIDA, Yasuhiro MATSUMOTO, Masahiro SHIBA, Yukifumi SASAMORI, Koichiro KIDO, Shigeki TAKESHITA, Takuya AYABE

帝京大学医学部産婦人科学教室産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Teikyo University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
甲状腺腫を認める胎児の甲状腺機能は亢進,低下,正常のいずれの可能性もあり,対応が異なるため,鑑別診断が求められる.今回我々は,胎児甲状腺腫を認め,超音波所見から甲状腺機能低下を疑い,臍帯穿刺を施行したが甲状腺機能は正常であった一例を経験したので報告する.
【症例報告】
症例は29歳,0回経妊0回経産.既往歴に特記すべきことなし(甲状腺疾患なし).油性造影剤を使用した子宮卵管造影検査(以下HSG)を施行された周期に自然妊娠した.前医にて,妊娠初期の血液検査でTSH, FT4, FT3は正常範囲内であった.24週の妊婦健診時に胎児頸部腫瘤を認め,当院に紹介初診となった.超音波検査では,胎児の前頸部に縦径約3cm,前後径/横径約2cm大の蝶形・左右対称・内部均一な高輝度の充実性腫瘤を認め,形態から胎児甲状腺腫が疑われた.気道は明瞭に描出され,呼吸様運動に伴う声門の開閉あり,羊水過多もないため,気道狭窄・閉塞はないと判断した.その他,胎児心拍数異常,胎児水腫,クローバー葉状頭蓋,大腿骨遠位部の骨化も認めなかった.カラードプラーで腫瘤中心部分には血流はなく,辺縁の血流を認めた.甲状腺機能低下例では,甲状腺腫大以外の異常所見はなく,腫瘤周辺の血流を認めることが多いとの報告があり,本症例は甲状腺機能低下状態である可能性を考えた.MRIでも,T1強調像で高信号,T2強調像で低信号の境界明瞭な腫瘤を認め,胎児甲状腺腫と診断した.甲状腺機能低下のリスク,臍帯穿刺のリスク,早産のリスクを総合的に考え,夫婦と治療方針を相談した結果,妊娠32週で臍帯穿刺を施行し,甲状腺機能低下の場合は,児を娩出して新生児治療を行う方針となった.全身麻酔の後に,超音波ガイド下に臍帯穿刺により採血したところ,臍帯血中TSH:3.65μIU/ml, FT4:2.1ng/ml,FT3:1.3pg/mlであり,有意な異常所見とはいえず,甲状腺機能は正常と判断し妊娠継続の方針となった.術後は甲状腺腫の大きさは著変を認めず,妊娠38週以降は甲状腺腫の描出は困難であった.妊娠40週6日前期破水で入院し,自然陣発するも有効陣痛は得られず,破水から48時間後に子宮内感染が強く疑われ,妊娠41週1日緊急帝王切開により児を娩出した.児の頸部正中に軽度の膨隆を認め,触診では軟らかく境界不明瞭であった.超音波検査では,高輝度域で均一な充実性腫瘤で,約3cm大の蝶形の甲状腺腫を認めた.CTも甲状腺腫と一致した所見であった.新生児の血液検査では,TSH値が出生時のサージにより一時的に高値を示したが,その後自然経過で低下し基準範囲内となった.FT4, FT3は共に基準範囲内を推移し,TBIIは陰性であった.以上から単純性甲状腺腫と診断した.「考察」本症例における甲状腺腫の原因は断定できないが,HSG時に使用した油性造影剤が甲状腺腫を引き起こすとの報告もあり,HSGが原因である可能性は否定できない.胎児の甲状腺機能亢進を示唆する所見として,胎児頻脈,心筋肥大,胎児水腫,FGR,肝脾腫,骨化亢進等がある.一方,甲状腺機能低下では,甲状腺腫がある以外は明確な異常所見に乏しいと言われている.近年,腫瘤中心の血流が増加している場合は甲状腺機能亢進を,周辺の血流が認められる場合は機能低下が多いとの報告がある.今回の症例は,腫瘤周辺の血流が認められたが甲状線機能は正常であった.甲状腺機能低下と正常との鑑別は,まだまだ今後の検討を要する領域であると思われた.