Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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cover

2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
消化器:肝2

(S547)

肝嚢胞腺癌との鑑別が困難であった,出血性肝嚢胞の1例

Case of a hemorrhagic hepatic cyst difficult to differentially diagnose as different from hepatic cystadenocarcinoma

大廻 あゆみ1, 宮﨑 慎一1, 森田 照美1, 上萬 恵1, 野田 裕之1, 遠藤 香2

Ayumi OSAKO1, Sinniti MIYAZAKI1, Terumi MORITA1, Megumi JYOUMANN1, Hiroyuki NODA1, Kaori ENDO2

1鳥取生協病院内科, 2鳥取生協病院臨床検査室

1internal medicine, Tottori Seikyo Hospital, 2Clinical Laboratory, Tottori Seikyo Hospital

キーワード :

【症例】
70歳代女性.
【現病歴】
定期通院疾患なし.上腹部不快感を主訴に近医を受診した.腹部超音波検査で肝右葉に14cm大の多房性嚢胞性病変を認め,嚢胞内部に2.5cm大の類円形充実成分を認めた.肝嚢胞腺癌の疑いで当院に紹介となった.
【経過】
腹部ダイナミックCT検査では,肝S6に,内部に充実成分を認める嚢胞性病変を認め,充実部分にわずかな造影効果を認めた.超音波検査では肝右葉に10.5×7.2cmの境界明瞭な多房性腫瘤を認めた.内部エコーは無から低エコーが混在しており,最も大きな房内には嚢胞壁に接するように3.0cm大の充実成分を認めた.ドップラーで血流は認めず,流入する血管も認めなかった.造影MRIでも嚢胞内の充実部分にはわずかな造影効果が疑われた.嚢胞内の液体はT1W1高信号,T2W1中等度信号であり,血液成分または粘稠度の高い成分が示唆された.腫瘍マーカーはいずれも正常範囲内であり,造影効果はみられなかったものの,充実部分の存在から悪性腫瘍も否定できなかった.腫瘍細胞播種の恐れがあり,穿刺細胞診は施行せず,肝後区域切除術を施行した.摘出標本の病理組織検査では,病変は単層の扁平な上皮に覆われた多房性の嚢胞であり,嚢胞内容には多数の赤血球と少数の炎症細胞を認めた.術前検査で認めた充実部分は陳旧性の血腫だった.以上より嚢胞内血腫を伴った肝嚢胞と診断された.
【考察】
肝嚢胞性病変の診断には,超音波検査,CT検査,MRI検査が有用とされている.ドップラーでの血流の有無,造影増強効果の有無を注意深く観察することで,complicated cystなどの良性疾患と悪性疾患との鑑別が可能とされる.1983年から2011年の期間で,医中誌にて「肝嚢胞性病変」「嚢胞内出血」のキーワードで検索したところ,わずか6症例の報告があるのみであった.またそのいずれにも嚢胞内血腫を形成した記載はなかった.本症例では血腫形成により嚢胞内部に充実成分を認めたため,悪性腫瘍が否定できず,術前検査での診断が困難であった.