岡野 智子¹, 木村 公一^{2, 4}, 竹中 克¹, 海老原 文¹, 宇野 漢成³, 森田 啓行⁴, 永井 良三², 矢冨 裕¹

Tomoko OKANO¹, Koichi KIMURA^{2, 4}, Katsu TAKENAKA¹, Aya EBIHARA¹, Kansei UNO³, Hiroyuki MORITA⁴, Ryozo NAGAI², Yutaka YATOMI¹

¹東京大学医学部附属病院検査部, ²東京大学医学部附属病院循環器内科, ³東京大学医学部附属病院コンピュータ画像診断学／予防医学, ⁴東京大学医学系研究科健康医科学創造講座

¹Clinical Laboratory Medicine, The University of Tokyo Hospital, ²Cardiovascular Medicine, The University of Tokyo Hospital, ³Computational Diagnostic Radiology and Preventive Medicine, The University of Tokyo Hospital, ⁴Translational Research for Healthcare and Clinical Science, The University of Tokyo

キーワード :

【背景】
Tissue Doppler imaging（TDI）を用いたTDI E/E’は左室充満圧指標として広く使用されている．しかし重症心不全症例においてはTDI E/E’を用いた左室充満圧推定は信頼性が下がる．かかる症例では,speckle tracking法による拡張早期global strain rate （GSR-E’）の有用性が報告されている．一方で,左室駆出分画（EF）が保たれた心疾患症例の左室拡張能評価においてTDI-E’とGSR-E’の有用性を比較・検討した報告はまれである．
【目的】
左室駆出分画の保たれた症例の左室拡張能指標としてTDI-E’とGSR-E’の有用性を比較・検討する
【方法】
対象は,当院へ心不全・狭心症の診断で入院した症例のうち,重症弁膜症・僧帽弁術後・EF低下（EF＜50％）・心エコー画質不良例を除外し,左室圧計測と心エコー検査を24時間以内に施行した連続102症例（年齢=64±10歳,男/女=80/22, LVEF=67.3±7.3）．左室圧曲線より下降脚時定数（Tau）, -dP/dt, 拡張末期圧（LVEDP）を求め左室拡張能指標とし,心エコー検査（心尖部四腔像）で計測したTDI-E’とオフライン解析（2D-Tracking, Toshiba）で計測したGSR-E’とを比較検討した．
【結果】
Tauとの相関は,TDI-E’ （R=-0.41, P＜0.01）, GSR-E’ （R=-0.46, P＜0.01）．-dP/dtとの相関は,TDI-E’ （R=0.35, P＜0.01）, GSR-E’ （R=0.30, P＜0.01）．LVEDPとの相関は,E/［TDI-E’］ （R=0.45, P＜0.01）, E/［GSR-E’］ （R=0.43, P＜0.01）であった．心エコー指標のすべてが左室圧より求めた各拡張能指標と有意な相関を認めた．左室充満圧上昇（LVEDP＞16mmHg）に対するE/［TDI-E’］の感度/特異度/AUCは 0.83/0.72/0.71であり,E/［GSR-E’］の感度/特異度/AUCは 0.83/0.78/0.84であり,診断能（AUC）はspeckle trackingを用いたE/［GSR-E’］が従来のE/［TDI-E’］よりやや大きな傾向を示した．
【結論】
左室EFが低下した重症心不全症例の場合と異なり,左室EFが保たれた症例においては,tissue Doppler指標とspeckle tracking指標の有用性に大きな差は認められなかった．これは,左室の形態と収縮能の異常が小さいために,音線方向の弁輪部運動速度が左室拡張期特性を良く反映し,左室壁全体を見渡すglobal strain rateを使用する意義が少ないためと考察された．