Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

ポスター
基礎:基礎

(S513)

焦点移動速度と照射量の最適化による超音波治療の高効率化

Increasing Efficiency of HIFU Treatment by Optimization of Focus Scanning Speed and Exposure Dose

松木 航介1, 鳴見 竜太1, 東 隆1, 葭仲 潔2, 佐々木 明1, 沖田 浩平3, 高木 周1, 松本 洋一郎1

Kousuke MATSUKI1, Ryuta NARUMI1, Takashi AZUMA1, Kiyoshi YOSHINAKA2, Akira SASAKI1, Kohei OKITA3, Shu TAKAGI1, Yoichiro MATSUMOTO1

1東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻, 2産業技術総合研究所ヒューマンライフテクノロジー研究部門, 3日本大学生産工学部機械工学科

1Department of Mechanical Engineering, The University of Tokyo, 2Human Technology Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 3Department of Mechanical Engineering, College of Industrial Technology, Nihon University

キーワード :

【目的】
近年,低侵襲治療法の一つとして,強力集束超音波 (HIFU) 治療が注目されている.HIFU治療とは,体外から強力集束超音波を体内で焦点を結ぶように照射し,焦点付近の体組織を加熱凝固・壊死させる治療法のことである.よって,患部を低侵襲かつ選択的に治療することが可能であるので,患者への肉体的・精神的負担が小さくなり,社会復帰までに要する期間の短縮につながる.しかし,現在のHIFU治療には治療時間が長くなるという問題がある.HIFU治療は,一回の照射による焼灼域が治療対象となる患部の大きさより小さいため,照射と焦点移動を複数回繰り返す必要がある.そして,蓄熱によって温度制御が難しくなるのを防ぐため,前回の照射による熱的影響が小さくなるまで照射間に冷却時間を設ける必要がある.これらが治療時間の長くなる原因となっている.そこで,本研究ではHIFU治療の治療時間を短縮させることを目的とする.
【方法】
照射しながら焦点移動を行う際に,焦点移動速度が遅すぎると蓄熱により温度場の制御が難しくなり,早すぎると十分な温度上昇が実現出来ない.また,照射開始時と終了時で蓄熱の効果は異なる.よって,温度上昇域を拡大するためには,焦点移動速度と照射量の最適化方法を見出す必要がある.また,皮膚のように,焦点移動をしても毎回の照射で経路が重なる部分の蓄熱は制御が困難である.よって,照射中の焦点移動による焼灼域の拡大がどこまで可能なのかを明らかにする必要がある.本研究では,位相制御法[1]を用いて焦点移動を行う.この手法では,複数の独立した素子から照射される超音波の位相制御を行い,波の重なりを調節することで任意の位置に焦点を形成することが可能である.トランスデューサは球面アレイ型の56chトランスデューサを用いる.このトランスデューサは,共振周波数は2MHz,幾何学的な焦点距離(曲率)は100mm,外径は100mm,内径は40mmとなっている.また,56個の素子は4重のリング状に配置されており,1リングあたりの素子数は内側から9,12,16,19個である.このトランスデューサを用いて位相制御を行うときの焦点位置制御の可能な範囲を検討する.そして,その範囲で焦点移動を行い,そのときの温度場を現在開発中の薄膜型熱電対アレイを用いて計測する.このときに,焦点移動速度と照射量をパラメータとして温度場を制御することで治療時間の評価を行うことを目標とする.薄膜型熱電対を用いることにより,ずり振動による測定値への影響をなくすことが可能である.
【結果】
焦点位置を超音波照射方向にのみ移動させた場合と超音波照射方向に垂直な方向にのみ移動させた場合について音場の計算を行った.超音波照射方向についてはトランスデューサに近づく方向に6mm,トランスデューサから遠ざかる方向に7mm,また,超音波照射方向と垂直な方向については1mmまでの範囲では,音響インテンシティは制御目標位置以外での最大値が制御目標位置での値の10%以下であった.この範囲では,焦点位置制御が十分に可能であると考える.
【今後の予定】
計算により求めた位相値を利用して実際に音場計測の実験を行い,計算結果とのバリデーションをとる.その後,薄膜型熱電対アレイによる温度場計測系を用いて治療の最適化について検討し,今学会で報告する予定である.
[1]K. Hynynen and G. Clement (2004) Magnetic Resonance in Medicine, 52: 100-107