Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2012 - Vol.39

Vol.39 No.Supplement

一般口演
体表臓器:乳腺3(組織弾性評価)

(S499)

乳腺エラストグラフィー画像中に見られる定在波の検討

Stationary Waves In Breast Ultrasound Elastography

杦本 卓司1, 渡邉 太郎2

Takuji SUGIMOTO1, Tarou WATANABE2

1純幸会 東豊中渡辺病院外科, 2純幸会 豊中渡辺病院外科

1Surgery, Higashi Toyonaka Watanabe Hospital, 2Surgery, Toyonaka Watanabe Hospital

キーワード :

【目的】
これまで用手圧迫で生じた横波の距離方向上下への伝播がスキャンの時間差のためReal-time Tissue エラストグラフィ 画像中に歪みの格子模様として捉えられことを報告してきた.周期的な圧迫の繰り返しで安定したエラストグラフィ画像を得やすいことから横波の定在波の可能性について検討した.スキャンのタイミングが違うフレームでも格子模様は方位方向に移動せず理由が不明であったが,方位方向にプローブを取り囲む定在波を仮定すれば節で弱く腹で強い振動が距離方向に伝わるため移動しない格子模様を説明できる.乳腺,乳癌組織やアクリルアミド(AA)ゲルのエラストグラフィ画像から2次元フーリエ変換(2D-FT)を用いて仮定した方位方向の定在波の波長を求め,定在波の特徴や距離方向に伝播する横波との関係について報告する.
【方法】
超音波装置HITACHI EUB-8500,AVIUSで記録したエラストグラフィBMP画像から歪み相対値を算出した.(1)画像左右両端で走査時間50ミリ秒の時間差があり画像横方向を時間軸と考え,64-256 pixel(0.7-2.6cm)の正方形部分を2D-FTし上下両方向に伝播する横波の振幅を波数,振動数ごとに算出した.伝播する横波を視覚的に捉え易くするため逆フーリエ変換で上下方向に分け,傾きが逆の2つの縞模様の画像を作成した.(2)方位方向に定在波が存在すれば横波の振幅も方位方向で規則的な変化が予想される.振幅が周期的に変動する振動をフーリエ変換すると振動数のピークが周期に応じて分裂する.これを利用し2D-FT振幅スペクトルの各波数の断面で規則的に現れる振動数のピーク間隔をフーリエ変換で求め仮定した定在波の波長を計算した.
【結果】
(1)乳腺,乳癌組織,AAゲルの距離方向横波の波長,振動数の分布を比べると振動数は同程度であったが乳癌や硬いゲルでは長い波長の割合が多くなり,幾つかのピークに分れた伝播速度(振動数と波長の積)の分布も速いピークの割合が多く,硬さによる違いが見られた.測定条件により歪とともに波長や伝播速度の分布も変化し圧迫などの影響が見られた.(2)乳腺,乳癌,AAゲルいずれも算出した定在波の波長を距離方向横波の波長に対しプロットすると傾きの異なる数本の直線状に分布した.定在波と横波との波長の比例関係は定在波の振動が距離方向へ伝播することを裏付ける結果と思われた.定在波の平均の振幅は波長が約0.5cm変化するごとに増減し波長の不連続な変化を示唆した.256pixelの2D-FTで定在波の波長は最小0.5cm最大2-2.5cmと見積もられた.距離方向の横波で見られた硬さによる波長分布の違いは定在波には確認できなかった.
【考察】
プローブを取り囲む方位方向の定在波の証明には精密な測定が必要と思われるが,計算した定在波の波長が組織の硬さによらず不連続に変化することは定在波の存在を肯定する結果と思われた.伝播速度や横波の波長が幾つかのピークに別れる現象も波長が不連続に変化する定在波で説明できる.定在波を節の数の違う固有振動に分けて考えると硬さや圧迫強度による伝播速度の違いは励起される固有振動の分布の違いで決まり,軟らかい組織や強い圧迫では節の数が多く波長の短い(エネルギー準位の高い)振動が励起されると予想され測定結果と一致する.この差を利用すれば硬さの違う組織を選択的に共鳴励起する方法も考えられ診断への応用が期待される.定在波が存在すれば圧迫によって組織内の規則的な歪みが生じることも予測され組織発生や構築の面でも興味深い現象と思われた.