藤本 智子¹, 小林 薫², 太田 寿¹, 森田 新二¹, 藪田 智範², 福島 光浩², 廣川 満良⁴, 網野 信行³, 宮内 昭²

Tomoko FUJIMOTO¹, Kaoru KOBAYASHI², Hisashi OTA¹, Shinji MORITA¹, Tomonori YABUTA², Mitsuhiro FUKUSHIMA², Mitsuyoshi HIROKAWA⁴, Nobuyuki AMINO³, Akira MIYAUCHI²

¹隈病院臨床検査科, ²隈病院外科, ³隈病院内科, ⁴隈病院病理診断科

¹Department of Clinical Laboratory, Kuma Hospital, ²Department of Surgery, Kuma Hospital, ³Department of Physiology, Kuma Hospital, ⁴Department of Diagnostic Pathology, Kuma Hospital

キーワード :

【目的】
篩（・モルラ）型乳頭癌は若年女性に好発する乳頭癌の亜型で家族性と散発性がある．家族性では大腸ポリポージス（FAP）を伴う為,本亜型を診断することで大腸ポリポージスの発見に繋がる．この亜型についての報告は少なく,超音波像に関する詳細な報告は少ない．今回我々はその特徴を明らかにし,他疾患との比較を行ったので報告する．
【対象と方法】
2005年1月から2011年10月までに当院にて組織学的に診断された篩（・モルラ）型乳頭癌24例を対象に,初診時の超音波画像を後ろ向きに検討した．比較対象として,通常型乳頭癌20例,濾胞癌20例,濾胞腺腫20例,腺腫様甲状腺腫20例を用いた．検討項目の内容は,形状,境界（性状,明瞭性,境界部低エコー帯,外側陰影）,周辺（血流シグナル）,内部（エコーレベル,均質性,高エコー,血流シグナル）,後方エコーなどである．
【結果】
篩（・モルラ）型乳頭癌の年齢は17-39歳（平均27才）で,血清サイログロブリン値が正常域を示したのが22例（91.7％）であった．大腸ポリポージスを伴っていた症例は11例で,そのうち2例は篩（・モルラ）型乳頭癌が単発性で,9例が多発性であった．大腸ポリポージスを伴っていなかった9症例のすべてが篩（・モルラ）型乳頭癌は単発性であった．大腸ポリポージスの有無が検索されていなかった4例の篩（・モルラ）型乳頭癌はすべて単発性であった．リンパ節転移は全例に認められなかった．細胞診断は乳頭癌と診断されたのが23例で,うち18例で篩（・モルラ）型乳頭癌が推定されていた．篩（・モルラ）型乳頭癌と通常型乳頭癌の超音波所見を比較した．本亜型に有意に頻度が高かった所見として境界平滑から一部粗雑,境界部低エコー帯,外側陰影,混合パターン,後方エコーの増強があった．一方,微細多発高エコーは通常型乳頭癌に頻度が高かった．濾胞癌との比較では外側陰影が本疾患に出現頻度が高く,一方濾胞癌に頻度が高い所見としては,境界部高エコーと,周辺および内部の血流シグナルの豊富さがあった．濾胞腺腫との比較で本亜型に頻度が高かったのは外側陰影,内部のエコーレベル低からやや低,混合パターンで,濾胞腺腫に頻度が高かったのは豊富な周辺および内部血流シグナル,内部均質であった．腺腫様甲状腺腫との比較では,外側陰影,内部エコーレベル低からやや低,後方エコーの増強などが亜型にみられやすく,腺腫様甲状腺腫では,周辺および内部血流シグナルの豊富さがあった．以上の結果から,他結節との鑑別に有用で篩（・モルラ）型乳頭癌に特徴的な所見として,6つの所見（境界は平滑〜一部粗雑,内部エコーレベルはやや低から低,後方エコーは増強,外側陰影はあり,微細高エコーはなし,腫瘍周辺,内部共に乏しい血流シグナル）が抽出された．これら全ての所見を有した症例は篩（・モルラ）型乳頭癌の87.5％,比較対象例の9％であった．
【考察】
本亜型の診断に有用な所見として,境界は平滑〜一部粗雑,内部エコーレベルは低〜やや低,外側陰影はあり,後方エコーの増強はあり,血流シグナルは腫瘍周辺,内部ともに乏しい,微細多発高エコーはなし,などが挙げられた．これらの所見を満たす腫瘤に遭遇した場合,若年,女性,血清サイログロブリン正常値などの臨床所見を参考にしながら,篩（・モルラ）型乳頭癌を考慮すべきであると思われる．